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街の大木との共生を~東京都国立市さくら並木より 平成27年1月27日 

 ここは東京都国立市の桜通り、開花の時期の写真です。
 この桜並木は、中央線国立駅前の大学通りと共に
緑豊かな学園都市に住まれる国立市民の誇りであり、大切なふるさとの原風景となって、市民の心を豊かに育んできたように感じます。
 
 私もまた、学生時代、そして社会人になってからもしばらく、縁があって国立市へと通う機会が続きました。三角屋根のかわいい駅舎と、街路の上空に枝葉を広げる圧倒的な木々に包まれたこの街の素晴らしさに心癒されてきた、若かりし頃の思い出の街でもあります。

 その頃のことを振り返るにつれて、街の緑は、そこに住む人だけでなく、その街に縁があって訪ねる人の心をも癒して思い出とともに残り、心を豊かに育ててくれるものなのだと、そんな当たり前のことに改めて気づきます。
 そしてそれは現在の私たちだけのものではなく、木々が植えられたその時から連綿と、その街の人の心と共にあって、そして世代をまたいで未来へと、この街の美しく落ち着きのある街を時間を超えて繋いでゆく。
 そう思えば思うほど、街の環境を作ってくれる大きな木々は、なるべく長く大切に育み、そして次世代へと繋いでいきたいと、改めてそう感じます。

  47年前に植えられたその桜並木の景観が今、道路改修工事計画によって大きく変わろうとしており、国立市民と行政が大きく揺れております。

 桜通りの道路改修整備計画に伴い、一部伐採の計画が進んでおります。この計画がはたして適切なものか、あるいは大きな街路の木々と人や道との共生できるもっと良い方法はないものか、そんなことを想いつつ、昨秋に続いて先日、再びこの桜並木を訪れました。

 写真手前の桜、伐採される予定の数十本の中の1本です。
 枝先までしっかりと花芽を付けており、こんな環境でも木々は力強く、印象的なまでに旺盛な樹勢を感じさせてくれます。
 これらの大木にはまだまだ十分に生きる力があり、土壌環境を改善し、周辺環境を含めて木々が健康に生きていける条件を整えてあげれば、まだ何十年と問題なく生きていけることが、幹や樹皮、枝先の状態などから分かります。
 
 ではなぜこうした木々が伐採対象なのでしょうか。

 樹木医診断によってC判定(不健全木)とされた木々に取り付けられた診断書を一つ一つ見ていきます。
 全てのC判定木で、樹勢(木の元気さ)については、そのほぼすべてが良好との診断にも関わらず、その判定を主に決定つけていたのは樹幹内の腐朽(空洞)割合であることが分かります。
 樹幹内の腐朽は大木老木となれば必ず進行するもので、枝折れや不適切な剪定などがきっかけとなって腐朽が起こり始まります。大抵の大木にはこうした腐朽を内部に抱えつつも、その後数十年、数百年と長く健康に生きてゆくのです。

 腐朽の進行はその木の寿命を左右しますが、その進行速度は土壌を含む環境条件とその木の持つ樹勢によって大きく異なります。
 その点、木の寿命というものは、あってないようなものであり、比較的短命なソメイヨシノといえども、根などの環境条件さえよければ、100年以上充分に健康に生きていけるもので、全国にはそんなソメイヨシノの見事な大木がまだまだたくさん見られます。

 植えられて50年弱という樹齢はソメイヨシノにとってもまだまだ若く、事実、車道沿いの決して良い条件とは言えないスペースに植えられたこの桜たちでさえも、まだまだ樹勢旺盛で、枝の先端、幹肌の更新具合を見ても、根の致命的なダメージは受けていないことが分かります。

 つまり、伐採対象のこれらの木々は、まだまだ生きようとする力にあふれていて、根を中心にその環境条件を改善することで、まだ数十年と、十分に健康に生きてゆく可能性を持っていることが明らかに感じ取れます。

 それにしても、この狭い空間で桜は必死に生きてきた様子が根元の盛り上がり方を見れば分かります。
 本来太い根を浅く広く張ってゆく桜の性質上、狭く囲まれた場所では特に、根は上へ上へと、「ヨッコラショ ヨッコラショ」といった具合にこうして上げてゆくのです。そして、地上部の太い枝に対応する根を太らせて張り出し、地上部と地下部のバランスを自ら取ろうとするのです。

 例えて言えばそれは、私たち人間が背を伸ばして、高いところにある重たいものを取ろうとする時、足を開いて踏ん張って、バランスを取りながら手を伸ばすのと同じことであって、木々は枝の張り出しと共にバランスを取るように根を張り出してゆくのです。

 そしてその根の成長のための栄養分は主に、その根に対応する太い枝から送られます。そのため太い枝を伐ることで、重たい樹体に対応してバランスを取っている太い根まで衰退し、それが倒木の大きな一因にもなるのです。また、剪定した枝の切り口からだけでなく、太い枝を伐ることによって痛んだ根からも、内部の腐朽が進むことが往々にして見られます。

 もちろん、樹勢旺盛な状態であれば、こうした変化にも十分に対応して修復する力をも木々は持ち合わせていて、台風などによる幹折れや枝折れ、あるいは様々な病虫害に対しても自ら力強く打ち勝って生きていこうとします。
 しかし一方で、樹勢が衰えてくればそれが致命的ダメージとなって衰退し、枯死してゆくことにもつながります。

 つまり、不適切な剪定が木々を痛め、その本来の寿命を大きく損なってしまう大きな要因になるのです。
 街の樹木の健康を保ち、なるべく長く安全に人の暮らしと共存させていこうと思えば、植えられた環境の良好な保全や、樹勢の回復速度を考慮して木々と対話するように行う適切な剪定とが、とても大切になるのです。

 昨年、桜通りの一部区間で、この改修工事が行われ、完了しました。これまで、この道路改修計画においても、桜の環境が健全な形で守られると信じて改修工事計画を受け入れた市民たちが、この工事後の変貌した風景を目の当たりにして驚き悲し
み、残った桜のトンネルを守るべく、立ち上がったのでした。

  昨年のうちに工事完了した区間では、十数本の桜大木が伐採され、残った樹木も枝を大きく切り詰められて無残な棒状となり、景観は一変しました。伐採された後には、新たな桜の苗木が植えられましたが、そこにはもう、長い間市民を守り育ててきた桜のトンネルの風景はなくなりました。

 街路樹を考える際、もちろん倒木や枝の落下、車両の接触を防ぐための安全上の配慮は必要不可欠なことです。しかしそれが木々の性質を把握したうえで的確に対処していかなければ、かえってその危険性を増すことにもつながるのです。
 この工事における桜の古木(実際のところ、50年弱では桜にとってもまだ若く、古木とは言えないのですが。)の扱い方は、その最たる、問題の多い事例と言えましょう。

 大木が自らの意思と力でバランスを取ってきた太い枝が、車の通行に支障のない高い位置にまでぶつ切りされ、強い日差しから自分たちの幹や根元を守ることもできなくなってしまっています。
 木々の衰弱は、幹や根の乾燥による要因がとても大きく、特に根が浅く太く盛り上がるこの街路の桜たちにとっては、そのことが致命的に根を傷める原因となりえるのです。そのため、現段階では健全と診断されて残された大木たちも、この環境の変化に対応できずに急速に樹勢を落とし、腐朽を食い止める力を失い衰退してゆく木々は増えることは確実と感じます。。
 また、伐採や強剪定によって、それまでお互いの枝葉によって弱められてきた風の勢いを遮るものがなくなり、それによる倒木の危険までもが相乗的に高まります。

 つまり、今回の伐採と不適切な剪定によって、かえって倒木の危険は増大し、そして残った桜も不健全化してますます寿命を縮めてゆくことに繋がるのが、この計画の問題の核心と考えます。

 この計画を進める行政や伐採推進業者は、「倒れたらだれが責任を持つのか。」と言います。
 しかし、今回の工事を推進することで、倒木の危険はさらに増すということが明らかで、道の安全確保の視点からも今回の計画自体を見直すほかになく、このまま計画を進めれば必ず、人にとっても樹にとっても悪い結果に繋がってしまうことでしょう。
 大きな環境変化は残存木に多大なストレスを与えてしまい、老化を進めてしまう。豊かな環境を作ってくれる大きな木々との共生のためには、危険の可能性を回避することが不可欠です。しかし、樹木の性質に対する本物の知識や想像力の不足が、まだまだ健康に生きる力のある大きな木々の伐採ありきの改修によって、かえって不健全で潤いのない街を増やしてしまっているのが今、日本全国の街の問題であるように思います。

 木々が健康に育つ環境を作ってゆくことが、潤いのある安全なで美しい街づくりのために大切なことであり、これからは新たな共存の在り方を作り出してゆく必要があります。

 国立さくら並木の問題は、それは私たちの住む街でも必ず起こる、あるいはすでに経験してきた問題でもあります。
街と木々とがどう共存して、素晴らしい環境を未来につないでゆくか、ここできちんと向き合うことがとても大切なことと思います。
 

 
 住民による工事見直し要求を顧みずに伐採が強行されようとした朝、住民たちの抗議によって工事はいったん中断となりました。
 共に生きてきた木々を守りたいと、これほど多くの市民が集まり、そして故郷の行政を動かそうとしていることに大きな感動を覚えます。
 緑豊かな国立市の環境がこうした素晴らしい市民の心を育み、そしてこの木々がここで暮らす市民によって守り育まれてきたことに、心の底から突き動かされます。

 そんな街だからこそ、日本に先駆けて木々と共存する街路の在り方を、市民と行政とが協力し、知恵を出し合うことで実現できることでしょう。そのために、私たちも微力を注いでいきたいと思います。

 なお、2月7日、午前10時、国立市役所3階会議室にて、
「サクラ通り 街路樹に関する意見交換会」が開催されます。

 ご関心のある方、ご意見のございます方は是非、ご参加くださいますようお願いいたします。また、当日午後、国立市民による、街路樹の未来を考える集いが開催されます。興味にある方はお気軽にご参加くださいませ。

なお、国立さくら並木の問題は、TBSテレビ 2月8日午後1時「噂の東京マガジン」にて、放送予定です。

多くの方がこの問題に関心を持っていただくことで、次世代の街の風景が変わることと思います。ご協力いただければ幸いです。

株式会社高田造園設計事務所様

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