こども園野草舎の造園・環境再生工事 着工 平成28年2月14日
ここは茨城県鹿島市。新設こども園、「野草舎森の家」の園舎が竣工し、4月の開園に向けて、造園および、傷んだ大地の環境再生工事に着手しました。
このこども園は広大な北浦畔の丘の上に位置し、鹿島神宮から続く鹿島市三社詣りの古道沿いに位置し、豊かな自然の恵みを受けて古くから人の営みが連綿と続いてきた、そんな場所だったのです。
この園舎がたてられる以前まで、この土地は自給的な菜園、果樹園として、伸び伸びと利用されてきたこの土地も、大規模園舎の建築工事に伴い、どうしても自然環境に対して悪影響を与えてしまいます。
今回、造園工事と並行して、劣化した土地の再生に取り掛かります。
建築工事によって傷んだ大地は、もはや雨水も円滑に土中に浸透することなく、表層を泥水が停滞し、大地をますます劣化させてしまいます。
その土地の生き物環境を支えうる大地の豊かさは、土地が有する大地の呼吸環境の健全性に由来します。
大地の呼吸環境とはすなわち、土地本来が作り出す通気浸透環境であり、大地が自律的にうみだす健全な環境では、おおよそどんな雨でも表層の泥水流亡は起こらず浸透し、そして地中の水脈を通過して濾過浄化された清水が湧水となって放出されます。
そして雨水の浸透と共に、空気も土中に引き込まれて、それによって土中のあらゆる生物活動が健全化し、さらに土壌環境は連動的自律的に豊かに育まれていきます。
一方で、そんな大地の呼吸に全く配慮せず、効率優先で行われる今の建築土木工事において、大地の呼吸環境は確実に劣化してしまいます。
これからの時代、美しい地球と私たちの子孫がこの大地に生き続けてゆくために、そのことを知り、こうした開発行為によって蹂躙された土地はきちんと、人の手によって再生しなければなりません。
呼吸しない大地のもとでは本来の健全な心身はなかなか育まれることはなく、健全な大地こそが健全な心身を育みます。まして、幼い子供たちの大切な数年間を過ごす環境は、不健全なものであってはならず、本来の健康な自然が見せてくれる様々な表情の中で、人としての健康な心と体の基を育んでいきたい、野草舎森の家の理念はそこにあります。
歴史ある鹿島の里山に新設される野草舎森の家、今回、この地の自然環境と共に生きてこられた理事長、園長の想いによって、この地のこれからの営みの中、百年、千年の森が健全に育まれる本来の豊かな環境を取り戻すべく、徹底した環境再生のための工事にかかりはじめました。
園舎周辺の里山は乾いた様相を見せており、この表情から、すでにこの地は健全な呼吸環境を失っていることが分かります。
旺盛に密集して伸長するシノダケの表情からも、地中に硬化した不透水層が新たに形成されていることが分かるのです。
事実、おおよそ大地の健康度は、視覚、足触り、土の香り、空気感など、人の五感で充分に感じ取れるものであり、今、多くの現代人は、その土地に生きてゆくための大切な感覚を見失ってしまっているようです。
こうした自然の表情が実際に何を現わしているか、そして息づく美しい環境を取り戻してゆくために何をすべきか、その確かなノウハウと感覚を今こそたくさんの人に知っていただきたく、このブログにて報告いたします。。
園舎周辺の土中通気浸透改善のため、掘削から始まります。
案の定、地下30㎝より下は固く締まった土層となり、そこにはシノダケの根すら進入できない、そんな土層が1m以上も続きます。
表層わずか30㎝足らずの範囲で植物根が苦しげにせめぎ合い、その土中の詰まりの様相が周辺の密集したシノダケの様相に反映されていたのです。
園舎周辺の要所で硬板層を掘り抜きます。
周辺の荒廃放棄地から刈りだしたシノダケも、大地の環境再生のための貴重な材料として運び込みます。
シノダケばかりでなく、周辺林から伐採木や枯れ枝等をかき集めます。これらの有機物が、大地の再生のために欠かせない役割を担うのですから、こうした有機物がごみ扱いされて処分される今の文明の在り方について、いつも考えさせられるのです。
有機物ばかりでなく、今回解体した外周のブロック塀のコンクリートガラも、これも大切な環境改善資材として余すことなく利用するのですから、私たちの環境再生にはほとんどゴミなど発生することはありません。
すべてが循環の中に還してゆくという発想は、人が今後も地球で生き続けてゆくために、とても大切なあり方となります。
大手緑化資材メーカー等が製品として作り出す高価な資材など、本来全く必要はないのです。スクラップ&ビルド、大量生産大量消費、大量廃棄、開発競争の末の未来には負の遺産しか積みあがらないのです。
園内は、植樹と共に土中環境改善作業を進めます。
植樹地の下層硬化土層を掘削し、そしてその脇に必ず、土中縦方向に水と空気が動いてゆく深い通気浸透孔を穿ちます。その深さ約2m。大きな建築負荷のかかって荒廃したこの土地では、そこまで掘らねば自律的な環境改善にはつながらないのです。
建築前まで柔らかで水はけのよい自給的な畑地だったこの土地も、建築後には木々の根も生き物も生育できない硬化した土に変貌してしまうのです。
この、通気浸透環境を根本的に改善することなく、単位植栽部分の土を入れ替えても数年でその土も硬化し、健全な環境へと再生されることはありません。
植栽部分の周囲に通気浸透の縦穴を掘ります。
縦穴に周辺から集めたシノダケや枯れ枝など、有機物を絡ませて、空気の通り道を確保します。
これによって、硬板層の下にまで空気と水の動きを誘導します。絡ませて埋設した植物材にはたくさんの好気性微生物や菌類などが繁殖し、雨水を濾過していくのです。
有機的なこうした暗渠に埋設する植物材は単なる泥漉し材ではなく、土中生物活動を再生して水を浄化するという本来の機能を活かすのです。
雨どいからの雨水管に切れ目を入れて、その浸み出し水が縦穴横溝に埋設した植物材を通って浸み込むようにします。
現代の建築基準で設置された雨水浸透桝は、砂埃が濾過されずにパイプを通って、人工的な透水シートから周辺に浸透させようとしますが、人工的で無機的なこうした浸透層は数年で目詰まりするばかりでなく、浄化されない汚濁水を土中深部に誘導することで土中に不透水層を作っていきます。
こうして、浸透しない不健全な大地が広がっていくのです。
この浸透ますを一つ一つ改善していきます。
植樹地は、木炭、枯れ枝幹などの有機物と破砕ブロック片などで土中に空間を作りながら埋戻していきます。周辺の縦穴は、土中の植物材の気抜きにもなります。
そして、有機物やコンクリート片をサンドイッチしながら土が圧密されないように埋め戻していきます。
埋め戻した植樹マウンドの表情。黒い粒は竹炭で、今回の工事でおそらく3000~5000㍑程度の竹炭を用いることになります。
そして、埋め戻した植樹マウンドの上に、樹木の根鉢を配していき、土を戻していきます。
こうした植樹によって、土地にはかなりの地形起伏が生じ、植樹部分はかなり高くなります。この高低差が地表にも地中にも多彩な水と空気の動きを生み出し、自律的な環境再生に繋げてゆくのです。
土中環境を改善しながらの植樹は遅々としたもので、6~7人による真剣勝負の作業でも1日に3マウンドの植樹がやっとです。
それでも、ここまでやれば、いずれ健康に育ったこれらの木々が、この地の改善をさらに進めてくれると思うと、とてもやりがいのある尊く充実感溢れる作業に感じます。
そして翌日の寒い朝、2mもの深さの竹筒から白い蒸気が立ち上っているのが見えるのです。
これこそ深い位置から土中の空気が動いている証で、大地の呼吸が取り戻されつつあることを示唆していました。
こうした地道な再生作業によってこの土地の環境は本来の豊かに息づく環境へと年々育ってゆくことでしょう。
さて、この工事はまだ始まったばかりです。今後、この土地がどのように変わってゆくか、なるべく詳細に報告していきたいと思います。
さて、余談になります。連日の季節外れの温かさで、庭のユキヤナギが開花の前に葉を開いてしまいました。
冬は、植物の地上部はじっくりと休息し、そして一年の活動に備えて土中の根をゆっくりとのばして体制を整える、本来そんな時期なのです。
それが、今のような荒々しい気候下で、植物は痛み、本来の眠りすら許されず、健康を害してゆく、それがここ数年、全国的な植物環境劣化に少なからず反映されているように感じます。
どうすべきか、僕にはわかりません。でも、明日を信じて、自然の声を聴きながら、そこで学んだ大切なことを人に伝えたい、そして少しでも、大地の環境を息づかせていきたいと、そう思うのです。
春の陽気に導かれて、我が家の自然菜園は一気に青々と、早春の花が開花をはじめました。時期外れの風景ですが、自然はおそらく、そんな私の憂いなどみじんもなく、自然界のリズムの中でいのちの営みを繰り広げるばかりです。
ロシアのベストセラーで世界中で翻訳されている、ウラジミールメグレ著「アナスタシア」の文中にこんな言葉があります。
「あなたが住んでいる社会は、ダーチャで育てられている植物と交信することで、多くを学べる。それにまず気付いてほしい。
ただ、あくまでもそれは、育てている人が植物を熟知しているダーチャだからできること。愚かなモンスターのような機械が這いまわっている人間味のない広大な畑ではむり。
ダーチャの菜園で土いじりをするととても気分がよくなって、そのおかげで多くの人が健康になり、長生きしてきたし、心も穏やかになる。
技術優先主義で突き進む道がいかに破滅的かを社会に納得させる、その手助けをするのがダーチュニク。」
生き物豊かな土壌環境が育つ我が家のダーチャ菜園の向かいには、大型トラクターで耕耘される農地が広がります。
トラクターによる締固めと表層の耕耘は土中生物環境をリセットしてしまう上、耕耘深さの下に、機械の重さによって耕盤という、不透水層を形成していき、徐々に大地はいのちを養う力を減じていきます。そうした畑ではもはや、農薬や化学肥料に頼った不健康な生産しかできなくなるのです。
さかんに耕耘が行われたのはここ数年ですが、その間にその奥の山林のネザサは密集して苦しげに背丈を伸ばし、藪と化していきました。
この光景こそ、この畑地の土中通気浸透環境が劣化してしまった証なのです。
しかし、こんな場所でも、植物たちは健気にも環境を安定させて再生していこうとするのです。
トラクターの全面耕耘にとってできた筋状の、微細な盛り上がった線、そのわずかな筋に沿って、春の野草が広がります。
耕耘して土壌の構造が破壊された土はすぐに風に舞い、雨に流されて安定せず、そんな場所では土地は安定せずになかなか良質な表層環境は生じないのですが、それでも、この筋状のわずかな起伏によって、その筋周辺だけ土中の空気が動き、土がわずかに安定してそこから野草が根を降ろし始め、さらに土地を安定させていきます。
いずれまた耕耘されてしまうのですが、それでもまた、大地は常にこうして再生しようと働くのです。
こうしたこともすべて、植物たちが教えてくれます。日々、きちんと大地を向き合うこと、それを取り戻すことが今、何より大切なことと感じます。