山行・旅

房総の名山 鋸山にて 平成22年10月17日

 7月にかかりはじめた千葉県南房総市Tさんの庭の造園2期工事、猛暑の影響もあって何度も中断しながらもようやく先週終了しました。庭の様子は来春の新緑の時期を待って撮影し、ウェブの施工例にてご紹介いたします。
 今日は造園工事の終了確認と庭の引き渡しのために今日の午後、南房総を訪ねました。

 南総里見八犬伝で有名な富山のふもとには、刈り取りを終えた田んぼに毎年、この時期にコスモスを咲かせている所があります。
 今日は運よく、一面に咲くコスモスに立ち会うことができました。風に揺れる優しい色合いのコスモスの花は秋の風をさらに清らかに感じさせてくれるようです。
 秋桜とはよく言ったものです。

 そして、引き渡しの後、日差しが西に傾く頃、房総の名山、鋸山に登り始めました。
 千葉県の最高峰は、標高わずか408mの愛宕山、、、最高峰の標高としては、全国でも千葉県が最低です。そして、名山として名高い鋸山は標高329m。普通に考えれば山というより丘というべきかもしれません。
 しかしながら、日が陰り始める時間帯からこうして気軽に登れる身近さという点では、千葉県の山は日本一と言えるかもしれません。

 東京湾に面してそびえるこの山塊は、江戸時代より石切り場として盛んに石の切り出しが行われてきました。その石は房州石と呼ばれます。かつては塀や土留めの石積み、石段などの材料として、江戸周辺の消費地に東京湾の海運で運ばれていきました。
 石の切り出しは昭和50年くらいを最後に、産地としてのその歴史が閉じられましたが、今も石切りの後の独特な雰囲気がこの山に充満しています。

 かつての石切り場へ伝う道は、房州石の石畳が残ります。風化の早い凝灰岩ゆえに、風雨にさらされて柔らかい部分が溶け、様々な曲面に変形している風情は、独特で日常離れした雰囲気を醸し出しています。

かつての石切り場の跡、含水率の高い房州石の岩肌は苔むして、そして樹木はその亀裂に根を張ります。石の切り出し後に露出した岩肌を、自ら山の自然の中へと引き戻そうとしているようです。

房州石切り出し後の岩肌に彫られた百尺観音。30m以上の巨大な摩崖菩薩です。
昭和41年から6年の歳月をかけて彫られました。戦没者の供養や、当時急増していた交通事故犠牲者の供養のために彫られたようです。
 なぜこの地に壮大な摩崖菩薩が彫られたのか、それは問わずともここを訪れた人には容易に納得できることのように感じます。
 この不思議な空間の雰囲気に身を置くと、神聖なるものを誰もが感じ取るのではないかと思います。そして、ここにおられた観音様を岩肌の中にごく自然に見出して、それを彫り出したのでしょう。

 この山の歴史は大変古く、今から1300年も前に聖武天皇の発願で、奈良時代の名僧行基菩薩によってこの地に日本寺が開山されたと伝えられます。
 古くからの霊地ゆえに、石の切り出しという大規模な自然の収奪の後にもなお、その霊性がここに宿っているような、そんな不思議さを感じます。

 

 房州石が切り出され、そして鋸状にギザギザした形で岩塊が残されています。それゆえにここは鋸山と呼ばれているようになったようです。本来この山は乾坤山といいました。鋸山という名称は近代以降の呼称のようです。
 鋸歯状に残された岩塊は樹木に覆われて、その様相はまるで北宋山水画の世界を彷彿とさせられます。

 下山する頃、東京湾に日が沈みかけます。人生にほっと一息がつくような、ちょっとした心の区切りとなるような、そんな一時です。
仕事の合間、わずか2時間程度の小さな旅のひとコマでした。

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