木々が繋ぐふるさとの風景 平成24年12月1日
気ぜわしく過ぎ去る年の暮、月日の流れはどうしてこうも早いのか、たまにはブログも書かないといけません・・。
昨日手入れにうかがった、埼玉県飯能市Sさんの庭も、竣工後3度目の冬を迎えました。
秩父の玄関口、飯能市の気候風土には落葉雑木が非常に適応し、少し遅かったですが素晴らしい紅葉が楽しめます。
家の窓に赤や黄色の葉影が映えます。
この庭の植栽樹木はほとんどが飯能市周辺の里山に健全に自生する樹種で構成しています。
実際、街中と山間部では、近接地域でも微気候条件が全く異なるものですが、山々に囲まれたここ飯能市内は今もなお、山間部の木々が街中においても健全に生育できるようです。
温暖化に加えて都市部のヒートアイランド化、そして夏場の乾燥期間の長期化など、南関東地域の都会では、落葉樹の健康維持が難しくなりつつあるように感じます。
そうした中、ここ飯能市の紅葉は見事な色合いで木々も健康な生育を見せてくれています。
ここは飯能市より山間部に入ること車で1時間、秩父観音霊場札所1番、四萬部寺本堂背面の山の上。
コナラ、クヌギにケヤキ、モミジ、ヤマザクラなどが懐かしい雑木林の風情を感じさせてくれます。
山中の道沿い、モミジの落ち葉に埋もれながらも凛とした表情のお地蔵様。
飯能市の竹寺の紅葉。
秩父の山間部では、今も懐かしい、管理された里山の名残がいたるところに見られます。
山と共にあったかつての暮らしが今もなお、山間地には息づいているようです。そして、そんな当たり前の風景も今では日本から次々に姿を消しつつあります。だからこそ、この秩父の香りは訪れる人の郷愁をそそり、そして敬虔な気持ちにさせられるのでしょう。
秩父観音霊場札所2番、真福寺への参道沿い、秩父に特徴的な緑泥片岩の岩壁に安置されたお地蔵様や観音様。
いつの時代からどれだけの人たちにお参りされてきたことでしょう。
秩父地域に産出する緑泥片岩の石積み。秩父周辺では土蔵の基礎から板碑など様々な石材に地元産の緑泥片岩が用いられてきました。こうしたことの一つ一つが生活に密着したふるさとの風景を特徴づけているのでしょう。
観音堂に至る石段ももちろん、地元の緑泥片岩です。長い歴史の中で、山中を巡りお参りするどれだけの人に踏まれてきたことか、表面が削れて光沢を帯びた佇まいがまた、心を浄化してくれます。
越し屋根が特徴的な土蔵の佇まい。
長年の風雨にさらされて、土壁の表面がはがれて、荒壁を繋ぐ下地の藁縄がむき出しになっています。
この荒縄を結んだ人は、きっともうすでに秩父の土に還っていることでしょう。そしてこの藁縄は、私よりもはるかに年上なのでしょう。
幾重にも続く山襞ごとに、霞沸き立つこの風情。この土地の先祖代々、数千年の昔から秩父の人は、この風情に包まれながら延々と暮らしてきたことでしょう。
静かなる秩父の風情、この豊かな在り様が100年後も300年後も変わらないことを願う、そんな思いが胸の奥から沸き起こります。
昨日、飯能市の商店街の街路空間緑化について、市職員方々からの質問を受けて市役所の方々にレクチャーさせていただきました。
これからの街の緑化、それはふるさとの木々によるふるさとの自然を取り戻すこと、同時にふるさとの自然と共にあった暮らしの在り様を再認識し、ふるさとの自然や暮らしぶりと再び向き合うことから始めねばなりません。
自然と共にあった秩父の暮らしぶり、そこに今後の日本をよい国へと再生してゆくための一つの答えがあるように思います。
飯能市内のSさんの庭も、施工後3年めとなり秩父らしい風情が漂いはじめてきました。その土地の自然を街中に繋げてゆくことで、豊かで愛されるふるさとが少しずつ再生されることでしょう。