東京都小平市 なおび幼稚園の記念植栽 平成25年3月1日
ここは東京都小平市、なおび幼稚園。
武蔵野の面影点在する玉川上水のほとり、伸び伸びとした佇まいの幼稚園は今年で50周年を迎えます。
このたび、幼稚園50周年の記念事業として、園庭改修のご依頼をいただき、週初めの火曜日から作業を開始いたしました。
植栽前の地鎮祭には、200名の園児も全員参加です。
土地の神様をみんなで祀り、そして土いじりの許可をいただきます。
「植えた木々は皆で代々大切に育てます。この土地を尊重し、感謝し、決して荒らすことはいたしません。」
そんな思いで土地の神様に頭を下げます。
春から夏の間は裸足で園庭を駆け回るなおび幼稚園の子供達です。
しかし現状では、園庭や園舎周辺には、夏の日中に涼やかな木陰を落としてくれる木々がほとんどありません。
今回の植栽改修によって、数年後にはこの園庭や園舎全体が、点在する木立が作り出す木漏れ日に包まれることでしょう。
厳かに進行する地鎮祭。こうした場に園児全員が参加しています。かわいい子供たちの記憶の中に、この風景はどのように残ってゆくことでしょう。
大人も子供も区別なく、ともに暮らし、そしてなんでも子供たちに体験させる。そして実体験の中から様々なことを学んでゆく、それがこのなおび幼稚園の方針なのです。
芝生の園庭に、ここ武蔵野の暮らしの中でかつては身近にあったコナラやクヌギ、シラカシにシイノキ、ケヤキ、ソロノキにモミジなどを組み合わせて木立にまとめ、そして園庭に点在させていきます。
こうした工事も、子供たちがいる開園時間に進めます。子供たちは毎日、木々が増えてゆく様子を興味深く見ています。
どのように木が植わってゆくのか、どのように工事が進むのか、そして、近づいたら危ない、触ってはいけない、そんなことを実際に感じ学び取ってゆくのです。
昨年、この工事の設計打ち合わせの際、私は園長先生にこう尋ねました。
「工事の際はクレーン車や重機車両が何台も入ります。園庭に木を植えるための大きな穴も掘ります。作業時間は子供たちがいる開園時間を外したほうがよいでしょうか。」
私のそんな質問に対して、 園長先生の答えは明快でした。
「いいえ、子供たちがいる時間帯にぜひ、工事を進めてください。ここの子供達には、なんでも見せてなんでも体験させるようにしています。それがこの子たちにとっての大切な勉強になります。
工事がどう進むのかとか、何をしたら邪魔になるとか、なにが危険なのかとか、そうしたことも実際に見ながら自分で感じ取ることが大切ですから。」
納得です。共感です。
興味津々な子供たちを感じながらの植栽は、作業する我々もとても楽しく、ついつい張り切り過ぎてしまいます。
緩やかな起伏の芝生の中に重機を入れるわけにはいきません。園庭の中の植栽は手作業で進めます。
長年にわたって木々が健康でいられるよう、固い土を深くまで掘リすすめ、大量の堆肥を漉き込みながらの植栽です。
今後何代にもわたってこの地域の子供たちと共に過ごし、そして子供たちの健全な成長を見守る木々です。いつまでも健康でいられるよう、土壌改良と木々の性質に応じた配植に万全を尽くします。
植栽は園舎際の落葉樹高木の植栽から始めます。この下に、シラカシやシイノキ、イヌシデなどの苗を補植し、ノシバでグランドをカバーします。
今年の夏までにはしっかりと根付き、子供が木登りできるまでになることでしょう。
この木々が夏の縁側に木陰を作り、そして葉音や木漏れ日を揺らします。木々は小鳥やセミなど、様々な生き物を呼び集めてくれます。
身近に感じる生き物たち、そして生き生きと枝葉を広げる木々のありがたさ、そこで遊ぶ子供達の様子を想像しながら、広い園庭に一カ所、また一カ所と木立を増やしていきます。
L字型の園舎のコーナー部分、高木が植わったところで、木々の下で今日はもち米をかまどで炊いて餅つきです。
園長先生に事務長方々が威勢良い音を立てて餅をつく様子を園児が見守ります。
ちなみに、園庭の木々はまだまだこれからたくさん植えていきます。
園庭内や園舎周辺の雑木植栽の傍ら、広大な園庭の外周部分には、竹を編んだ土留めを回し、そして既存地盤を掘り返し、ひたすら堆肥を漉き込み、土壌を深くまで改良し、締め固められて劣化した地盤を、再び樹木が末永く健全に生育できるよう、条件を整えていきます。
この園庭の外周部分には、サクラやケヤキの大木が点在しています。しかし、それらは踏圧や不適切な剪定によって軒並み傷んで、老木のような樹肌となっています。
私が初めてこの幼稚園を訪れたのは昨年の9月、その時、園長先生は私にこう言いました。
「祖父が始めたこの幼稚園は来年で50周年を迎えます。この50年の間に、この辺りは全く変わってしまいました。
昔は近くの雑木林で子供が遊んで、そして風呂を沸かすための小枝拾いも子供の仕事でした。森は子供たちの遊び場で、そこでいろんな生き物を知って、大切なことを学べました。
今、子供たちが遊べる森も小川も、この地域には全くなくなりました。
森の中で子供の頃の私たちが体験したことを今の子供たちに体験してもらいたい。木々があればいくらでも遊べるし、遊具など要りません。そんな植栽をお願いします。
そして、この幼稚園は今、開園してから50年経ちましたので、この先、また50年経ったとき、『ああ、50周年の時に木々を植えてよかったな』と、そう思えるような植栽をしてください。」
感動的な依頼でした。今現在のことだけでなく、50年後の将来を見据えた、未来のための植栽のご要望だったのです。
木々は、そこにいのちとして芽生えた後、あるいはその地に植えられた後、年々成長を続けて幾世代にも渡ってその土地の環境を作り、そして子孫代々にまで恩恵を与え続けてくれます。
本来木を植えるということは、そういうものでなければなりません。
未来の風景、未来の環境を作るのが私たち木を植える者の大切な使命なのです。
50年後の風景をはるか仰ぎ見ると、外周に点在する傷んだケヤキやサクラは、今のままではおそらく残ることはないでしょう。
そして、その後の100年、200年後を考えると、将来に永続する豊かな木々を今、この機会に育む必要を感じ、健全な外周林を造成することになりました。
ここに、小平市の気候風土の元でかつて生育していた自然植生樹種を多数織り交ぜた、この土地らしい健全な外周林を育むべく、樹木苗を植栽します。
もちろん今外周に存在する木々はそのまま生かし、そしてその下にも将来の更新用の苗木を植えてゆくのです。
苗木の植栽は園児たちと一緒に行います。子供たちが植える苗木、園児たちが大人になる頃には、豊かな外周林が完成していることでしょう。大人になって再びその外周林を見たとき、子供たちは何を思うことでしょう。
それにしてもこの幼稚園の子供たちはみんな生き生きとしていて、とても元気です。
そんな子供たちの心の中に、今の時代忘れられがちな、とても大切な種を撒き続けてきた、このなおび幼稚園。
この子たちのため、この地域の未来のために木を植える幸せをかみしめながら、職人総勢10数名でこの広い園庭の植栽を進めています。
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