目白の木陰の街と、千葉市O邸の造園施工 平成26年7月27日
梅雨明けと同時に猛烈な暑さが続いております。こんな時期は都会のコンクリート地獄から抜け出して、森の中の冷涼な高原で過ごしたいと思われる方が、きっと多いことでしょう。
上の写真、大きな木々に包まれて木陰に佇む住宅地はまるで軽井沢の別荘地を彷彿とさせられることでしょう。
しかしながら、この場所はなんと、山手線目白駅から10分と離れていない、東京都区内の住宅地、通称「徳川村」です。
もともとこの敷地は、江戸時代には尾張徳川家のお屋敷があった場所でした。昭和初期にこの敷地は徳川家によって、外交官などの在日外国人のために住宅用地として提供されたことから、この街が誕生しました。
大きく育ったそれぞれの家の敷地の高木が街全体を木陰にし、今日のような猛暑でもこの街では夏の風情を感じながら、日中でものんびりと散歩が楽しめます。
一歩この街の外に出ると、フルパワーの夏の日差しと、熱せられたアスファルトの照り返しにエアコン室外機の廃熱に包まれた、不快な夏の街が広がります。
年月を超えて居住者に守られ、時間と主に大きく育った木々の力が、ヒートアイランドの都会に在ってなお、街の心地よさをこれほどまでに実現しているのです。
各家々を見ると、木々に境界などまったくなく、それぞれの家の屋根上にかぶさり、そして自分の敷地の木々がお隣の敷地まで木陰にしています。
こんな街の在り方に、今の多くの日本人の常識と、この街の在日外国人方々との意識の違いを感じさせられます。
快適な街つくりに木々は欠かせませんが、その枝葉の先端にまで、自他の敷地境界ラインを気にしていたら、決して木々の力を活かした心地よい街など生まれようがありません。
木々の力が環境をつくり、微気候を改善する大きな力を持つのです。
街がこんなに暑くなり、エアコンなしでは過ごせない住環境が増え続けている今日そして将来、木々の力をいかに生かして、膨大な人工的エネルギーに頼ることなく自然の力で街の微気候を改善してゆくことがどれほど必要なことか、大切なことか、東京都市部の山手線内にあって、エアコンに頼りすぎずに暮らせるこの街が示唆してくれるようです。
住宅地内の桜の木々が夏の道路を木陰にします。ここでは桜の開花時期には道路にシートを並べて町全体でにぎやかな花見が毎年行われます。
木々があってこの街の魅力があります。この街に住む方々は、ここから出て東京の他の住宅地に移ることはまずできないようです。当然、この街以上に住みやすい場所など、今の都心にはほとんどなくなってしまったのですから。
今の日本人の多くは、木々の枝先の越境をなぜ気にしすぎるのか。木々は微気候を改善して素晴らしい住環境を作ってくれる上、小鳥や虫たちなど、たくさんの生き物と共にある健康な森の環境を作るのは、自然でのびやかな大きな木々なのです。
自然で優しく、潤い豊かでおおらかな住まいの環境をこれから取り戻してゆくためには、木々が大きくなったら意味なく剪定しないといけないという固定観念に縛られない、そんな意識を育ててゆくことが大切です。
私の尊敬する、秋田の同業者がこう言います。「落ち葉掃除はお互い様 木陰で休めればお陰様」
お互い様、お陰様、なんという素晴らしい日本語なのでしょう。こんな日本の素晴らしい心が育んできた平和で豊かな日本は、戦後、そして今、急速に失われています。
今、本当の意味で素晴らしい日本を取り戻さねばならない、時間と意識の高い人たちによって育まれて今に生きるこんな素晴らしい住環境を目の当たりにして、そんな思いと決意が強まります。
環境は時間をかけて作られるもの、おおらかに木々を大切に育てる心が最も大切だと感じます。
さて、現在施工中、千葉市中央区Oさんの造園工事です。夏の暑さの中での工事ですが、先に植栽した高木の木陰での作業のため、この暑さでも集中力を保って仕事することができるのです。
私たちの仕事はお客様の住まいの環境を過ごしやすくすること、同時に、木々があることの素晴らしさに気づいてもらいたいという願いを込めています。
梅雨の間に木々を植えて木陰を作り、そしてその下で猛暑の工事を乗り切る。木々は植えられた直後から、その場の環境を改善してくれます。
木陰での園路工事。セメントは使いません。土と酸化マグネシウムで叩いて固めていきます。とても手間のかかるやり方ですが、なるべく土に還る素材で施工したいとの私たちの思いは日ごと年ごと強まります。
セメントを用いればそれは環境を汚染し、ゴミになる。しかも蓄熱体となって住まいの微気候を悪化させる上、20~30年程度の耐久性しかない。
スクラップ&ビルドの果てに、日本はごみの山になっていきます。
数十年前までの千年万年もの間、日本人の歴史の中で暮らしの全ては自然界との物質循環の中で持続的に成り立っていたのです。
ゴミが積み重なられて環境が汚される社会の在り方は、実に戦後わずか数十年のことなのです。
美しい日本を未来に再生するため、庭の造作ではなるべく土に還る工法で、その素晴らしさと安らぎを知ってもらうことも、今の時代において、私たちななすべき大切な役割だと思っています。
やるとなったら徹底しないといけません。裏側の風化したブロック塀を壊すことなく、補強するため、型枠を組んで、石灰とにがりを混ぜて土を突き固めます。
数千年の昔から、世界中の建築土木工事で用いられてきた工法で、版築と言います。
少しずつ土を突き固めて、そしてまた重ねてゆくため、地層のような層状の模様となるのが版築の特徴です。
この模様は意図して作ったものではなく同じ模様は二つとないことが、おもしろさとおおらかさです。
酸性雨に耐えるため、上部の層には若干のセメントを混入していますが、その量は土に還しても問題が起こらない程度の必要最小限度にとどめます。
さて、この庭も来週完成です。木々のおかげで快適に作業できたことに感謝し、そしてこの木々はOさんの家を今後長きにわたって快適にすることでしょう。
今後の日本が木々と共存して持続的な幸せをつかめますよう、祈りを込めて一件一件庭を作ってまいります。