千葉県市川市の庭 植栽と土壌環境の再生 平成26年9月19日
千葉県市川市、Tさんの庭の植栽が本日終了しました。あとはTさんセルフビルドによる薪棚、木柵、そして、来週施工予定の駐車場工事を残すのみとなります。
植栽前は丸裸だった、山小屋のような佇まいの美しい家屋もようやく木々の合間に落ち着きました。
雨樋がなく、2階屋根からの雨水を受けるため、広い雨落ちスペースを設け、その内側に叩きの土間が廻ります。植栽スペースはわずかな幅ですが、わずかな庭を隔てて向き合う隣家との目線の衝突を、木々の枝葉が優しく緩和します。
狭い庭こそ、家際の雑木植栽が活きてきます。眺望のよい2階をリビングとするこの住まいでは、2階窓からの景ばかりでなく、夏の日差しや強風を和らげて快適な環境を作る木々の効果が心地よい住まいの環境を作ります。
眺望を妨げず、なおかつ木々越しに落ち着く窓辺の景となり、さらには夏の厳しい日差しが緩和されて、快適な住環境として育ってゆくよう、植栽を配します。
住まいに対して適切な植栽は美しい家屋の外観を生み出します。
家際、窓辺を中心として配植し、なおかつそれぞれの木々が将来伸びてゆく空間にも配慮します。数年後には、敷地の頭上を落葉高木の枝葉が占有する、木々の中の佇まいへと育ってゆくことでしょう。
叩きの土間に落ちる木漏れ日の表情。光と影が躍る庭の表情は刻一刻と変化し、飽きることがありません。
幅3m足らずの植栽スペースですが、ひとたび踏み込むと、すでに森の中の精気が感じられます。木々が健康に、自然で、ここに移住させられた木々が生き生きと育ってゆくよう、様々な配慮を尽くします。
人が快適と感じ、健康でいられる環境とは、木々や他の生き物たちにとっても健康でいられる環境なのです。
したがって、住む人にとって本当の意味で良い環境を作ろうと思えば、木々や様々な大地の生き物たちが快適に健康に生きられる環境つくりしなければなりません。
そのためには、植栽後、土壌環境を含めて力強く環境が改善される植栽の在り方、樹種の組み合わせや、庭を構成する素材の選択に至るまで配慮してゆくことはもちろん、宅地造成によって破壊された土中の水脈や気脈を再生することも、早い段階で健康な環境を作り出すうえで、とても大切になるのです。
植栽整地仕上げ後、実際の表土を見ると、生き物のいない荒れた土壌構造であることが分かります。植栽の際には大量の堆肥等の有機物資材を漉き込みますが、それですぐに土の健康が改善されるというものではありません。一度壊してしまった豊かな土を改善するには、それなりの時間をかけた対処が必要なのです。
もともとは豊かな関東ロームの畑土だったのですが、重機に蹂躙されて締め固められ、その後の開発、建築工事によって踏みしめられ、そして命育む豊かな土地は痩せ衰えていきます。こうした土壌は流亡しやすく、保水性も透水性もなく、固く乾燥しやすい状態となります。
植栽の際、こうした悪質な条件で、安易に樹木の周りだけ良質な土壌に入れ替えるというのが、これまでの造園土木の常識でしたが、それだけでは根本的な解決にはなりません。なぜなら、土中深い位置に至るまで、大地が健康であるために必要な、土中の水脈や気脈を含めて根本的に改善していくという発想こそが、実は大切なのです。
少し、土について説明します。これは土中の生物活動が豊富な、ふかふかの生きた土です。よく見ると、小さな粒状になっているのが分かると思います。この土壌構造を「団粒構造」と言い、実際にはスポンジのように柔らかで壊れやすく、その空隙にたくさんの水や空気を蓄えます。また、構造上、毛細管現象が起こりにくいために土が乾燥しにくく、木々にとっても、あるいは他の様々な生き物たちにとっても、命の源となる土壌の状態と言っても過言ではないでしょう。
健康な森林土壌の貯水効果や浄水効果は、団粒構造に起因します。
一方、固く締まった塊となる、締め固められた造成地や荒れ地に見られるこうした土壌構造を「細粒構造」と言います。こうした土は、雨が降ればどろどろの粘土のようになり、日差にさらされればすぐに乾燥し、固くなります。
よく、土の色で、「黒土」がよいとか、「関東ローム」だからよいとか言いますが、元の土がいくら有機質に富む豊かなものであっても、重機による造成や踏みしめによって団粒構造を壊してしまえばそれは全く良い土ではなくなるのです。土の色や種類ではなく、土壌の構造が良し悪しを決定づけると言えるでしょう。
乾燥しやすく、保水性のない、浸透せずに泥水となって流亡しやすい、そんな環境を増やしているのが今の宅地開発の現状です。
そして、一度壊してしまったいのちある土を再生するのも、やはり「いのち」の力以外にないのです。
造成された土地は透水性に乏しく、それが集中豪雨の際の都会の水害や井戸の枯渇など、様々な問題を引き起こします。そのため最近の住宅地では、雨水をなるべく土中に吸収させるべく、浸透桝の設置を義務付けることが増えてきました。
Tさんの住宅地も同様、行政の指導によって開発の際に敷地のいたるところに、こうした浸透桝が設置されています。
浸透設備の構造は、穴の開いたこうした集水桝の周りに、透水性のあるビニルシートでくるんだ砂利を配し、雨水を土に浸透させようとします。そして、暗渠管という穴の開いた管をやはり透水シートと砂利でくるんで敷地に巡らせて集め、浸透しきれない分を地中管によって敷地外に排水します。
これが今、一般的な浸透設備の在り方ですが、この構造の致命的な欠陥が二つほど挙げられます。
一つは、こうした人工的な素材は、徐々に目詰まりして効果を失うということ、もう一つは、その浸透性は結局は周囲の土壌の浸透能力に限定されるため、造成によって締め固められた、死んだ土においては、何の根本的な解決にもならないのです。
一方、このバケツの土は、庭に植えるために、リュウノヒゲのポット苗の根を振るった際の土です。ポット苗の中でさえ、根の作用と共生する土壌生物の力で団粒構造が育っていることが一目瞭然です。
土壌を改善するのは植物の根の作用と、共生する多様な土中生物の働き以外ないのです。
土壌改良の際に有機物を漉き込む大きな理由の一つは、こうした土中生物の進入しやすい条件を整えることにあります。
人工的な暗渠はいずれ詰まる、しかし、自然が作る団粒構造、そして年月をかけて作られる健康な大地の水脈は永久に詰まることがありません。土地の浸透性を高めるためには、人工的な手法によって不自然な何かを設置するという発想ではなく、豊かな大地を自然の力で再生してゆくという発想こそが大切なのです。
私たちの植栽では、高木樹種から中木、低木、下草と、木々を階層的に組み合わせて、圧倒的な数量の植物を植えます。その中心には、力強く根を伸ばして早期に環境を改善してゆく力の強いコナラなどの落葉高木樹種を主体に用います。
樹木を一本ずつ植えるのではなく、樹木群として組み合わせて植える理由は、たくさんの根の枯死再生によって土中に大量の有機物を持続的に供給し、土中の改善効果を高めることも大きな目的となります。
それだけでなく、畑の周囲に配した、苗木混植による生垣植栽部分にも、この土地の水脈を改善するための一作業を施しています。
この下の深い位置にまで土を掘り下げ、大きな石と土をサンドイッチしながら埋戻し、その上に、カシやタブ、クリやコナラ、モミジなど、1m程度の苗木を混植しています。
地中深くから大きな石と土をサンドイッチすることで、土が自重によって圧密されにくく、水や空気が浸透する条件を整えます。さらに、カシなどの深根性の高木樹種の苗木を配することで、早い段階で根が土中深くに達し、力強く土壌を解消し、透水性を高めます。そして良くなった土はさらに、この土地の木々を健康にしていきます。
「カシなど、大きくなったらどうすんの?」と思われる方もおられると思いますが、この生垣は畑への日差しを遮らないよう、最大2m以内の樹高程度で管理する予定です。根元から伐り戻しと萌芽による再生を繰り返しながら、小さな樹高で健康に活かしつつ、根の働きによって土中水脈や気脈の改善効果を発揮させ続けるのです。
その土地を健康にしてゆくこと、木々にとっても人にとっても健康でいられる環境を再生するという発想が、これからの住環境つくりにますます求められることでしょう。
病んだ土地を健康な大地に再生する、とてもやりがいのある仕事です。