麻賀多神社旧裏参道 地すべり斜面の安定造作 平成30年11月4日
ここは千葉県成田市台方、麻賀多神社。
終戦の前年、この地に降ろされたという日月神示で有名なその鎮守の杜には、東日本一とも言われる大杉をはじめ、巨木たちが今もかろうじて、この太古からの豊かな営み香る、この地を見守っているようです。
鎮守の杜、それは本来、その地域の環境の要を守るべく、本来その神域は、一山丸ごとあてがわれてきました。ところが今、多くは本殿拝殿の周辺のみを鎮守として残すのみにまで、極度に縮小されたケースが非常に多く、この麻賀多神社も同様に、今や鎮守の杜は、かつての森のほんの一部にしかすぎません。
なぜ、古来から土地の要の地として鎮守を定め、その環境を守ろうとしてきたのか、その意味を今こそ問い直されねばなりません。
麻賀多神社の旧裏参道だった小道において、長年土地の豊かさを守ってきた巨木も今は次々に伐られ、殺風景で霊気もない、つまらぬ道に変わり果て、その光景に落胆を隠すことができません。
でも、これが今の日本の現状です。巨木は、単なる危険物として次々に伐られ、そしてそのあとには歴史も風土も感じさせてくれる光景が何もない、乾いた土地へと変貌します。
旧裏参道、本来鎮守の木々に守られた石段の道だったであろうこの道も、いつしかコンクリート舗装の車道となりました。
そして両脇の斜面は、崖条例指定区域とされるほどに荒廃し、不安定な土手には、荒れ地の雑草が喧嘩するように競い合って徒長し、そしてそこに周辺の住人が除草剤散布する。
その結果、土壌は傷み、表土を守るべく草木根も枯れ果て、そしてまた崩落が進む悪循環。
こんなバカげたことが今、全国の田舎で繰り返されているのが現状です。
土壌が安定構造を保つことのできないまでに蹂躙され続ける土地は、たとえ傾斜が緩やかであっても、地すべりや斜面崩壊、土砂の流亡は続きます。
ここでも、斜面全体に無数の小規模崩壊が常時発生し、そして道路をも埋めていきます。
このたび、この土地を取得されたTさんの依頼により、この参道の土壌環境再生による土地の安定のための造作を行いました。
崩壊斜面の安定のためには、コンクリート擁壁など力で抑え込む必要など、全くありません。
その斜面の土の中を、水と空気がともに健全に動く、そんな環境さえ整えることができれば、そもそも地形を崩そうとする土圧など発生しないのです。
そうした自然の摂理に基づくやり方があり、そしてそれは特別な技術者でなくたって、だれにでもできるものだということを知っていただききたいと思います。
斜面のキワに、垂直の段差となるように切込み、そしてそこに横溝、縦穴を掘り進めます。
垂直段丘の形成、横溝、縦穴終了後、縦穴に竹筒を差し込み、枝葉を漉き込みます。
そして、斜面際に現地での竹林整備で発生した竹を用いて、キワの土留め柵を編んでいき、
そしてその柵に剪定枝葉を絡ませ、そして埋め戻します。
この枝葉が適度な湿潤状態で分解が進むと同時に、分解の過程で増殖する土中菌糸がそこから延びて、斜面の通気性保水性を高めていきます。
そんな状態が生じるころにはもはや、土圧も水圧も発生しない状態となるのです。
裏参道沿いの斜面下部、水が集まりそうな地形。
土中環境の衰えとともに進入した竹林の中になお、大木が残っています。
今回、竹林整備と同時に、この水脈の要の地に大きな穴を穿ち、土中通気透水環境の改善を図ります。
斜面を下って道が折れ曲がる地点、ここが土中水脈の要、心臓部と言える場所、ここに深さ2m近い大穴を掘り、そこで整備の際に発生した伐竹を燃やし、炭化させます。
いい感じに炭になり、炎がおさまり炭火となるのを待ちます。
そしてそこに土をかぶせ、
よく踏んで、空気の出入りを遮断します。
これによって炭が灰になることなく、現地の残材を用いた埋炭が完成していきます。
こうした一連の土中環境造作により、重苦しかった土地も軽やかに、明るさを取り戻してゆくようです。
そして、この穴が大地の呼吸孔であり、それを守るべく、ミニ鳥居を作って据えました。
龍神様の守りです。
地すべりが止まない不安定な土手が、こうした一連の造作で安定し、そして斜面の土壌はますます健康なものとなっていきます。
そして、キワの土留めの上部のミニ段丘は、直線状に造成するのではなく、微妙な地形に応じて、変化をつけていきます。
こうしたきめ細かな観察と造作が、斜面安定のための重要なカギの一つとなるのです。
この後、微妙な谷部分で、再び小規模な崩壊が起こるのですが、それでよいのです。
自然が、大地の健康を取り戻そうとして起こる現象の一つが斜面崩落です。
この、人為的な段丘形成によって、この斜面はこの造作をきっかけにして、再生へと動き始めます。
すなわち、斜面安定のために、もう少し地形を変える必要のある個所を、この後、小さく崩していきます。そして、そこに土中菌糸と草木根が呼び込まれて、安定した土手となっていくのです。
これでこの斜面は、改善に向かいます。上部の土壌環境もまた、豊かに育っていきます。
空気と水の通りの良い、自然の営みに逆らわない造作は、何とも言えぬ美しさと落ち着きを感じさせてくれます。
総延長100m近い参道沿いの崖面道路際に、合計55か所の縦穴通気孔を設け、竹筒を通して土中深部から安定させてゆく。それが土地の自然本来の安定化作用との協業で行われるのが私たちの環境造作です。
これで土地は安定に向かうのです。
そして、この枝を絡ませた、枝絡み土留めが土の循環へと還るとき、ここに安定した段丘が自然の力で完成していきます。
私たちの環境造作は、自然の安定作用に対する、ほんのわずかなお手伝いに過ぎません。
地すべりに対して、擁壁を巡らせて力任せに抑え込もうとしても、それは決して永続しない。永続しないものに守られる住環境など、本当は砂上の楼閣と変わらないのです。
むしろこうして、自然の作用に従い、自然本来の呼吸する地形の中に、人の都合の良い営みを溶け込ませてゆくことで、環境の豊かさの源を高めながら、共存の美しさを育むことができる、そんな造作が当たり前になれば、かつての美しい人の営みの風景はまた、戻ってくることでしょう。
かつては当たり前におこなわれてきた、智慧に満ちた環境造作を今、多くの人に思い起こしていただきたいと思います。