新年、最初の庭竣工「野鳥の集う庭」 2018年1月31日
今年も早、立春を迎えとしています。
今年が平和と希望の年になりますように、祈りを込めて。
今年最初の造園環境改善工事、千葉市若葉区の新興住宅地の庭が先日竣工しました。
この住宅造成地は、私の地元、森を切り払い、畑をつぶし、重機で平らに造成し、幾世代にも続く故郷の原風景も、生き物の生育環境も大規模に潰して、造成されました。
心のふるさと、地元の森や畑が大きな機械力ではぎとられるように造成の始まった、数年前のやるせない気持ち、今も浮かびます。
それまであった森や畑、古い家、すべてをはぎとり平らにして立ち並ぶ新たな家屋、そこに住居を構えられたOさんに、庭つくりの依頼をいただいたのです。
野鳥の写真を撮り続けてきたOさん、建築前の打ち合わせの際に私に言いました。
「たくさんの野鳥が訪れ、住み着き、森に行かなくてもここで野鳥観察ができる、そんな庭にして欲しい」
というものでした。
昨年の9月に始まった工事は2期に分けて行いました。大規模に地形を壊して行う最近の住宅開発地の多くは、風を緩和してくれる樹林もなく、強風の砂漠のような無機質な、そんな暮らしの場に変貌します。
ここに自然環境を再生する意味を考えます。
過去永劫に育てられてきたいのちの環境を現代一時の間にすべてを奪い取って顧みない、それが現代のわれわれ人間のやっている所業。
しかし、そこに心あるお施主が居て、そして、庭を野鳥が集う森にしたいと要望されたとき、
「ああ、この砂漠のような住宅地に一点でも、生きた土地、森が育つ環境を再生していけば、やがてそこが点々と森をつなげていって、街の環境再生の起点になって行くかもしれない。」
そんな希望が胸によぎり、そしてこの庭環境再生に取り組みました。
畑と林だったつい10年前、この辺りの森にふつうにあった木々を組み合わせて一群落を構成して、広大な住宅地にわずか一か所の植え込みが、街の見え方を大きく変えていきます。
一期工事にて、玄関前の植栽、アプローチ、浸透する駐車スペースの施工を終え、そして今年になって二期工事にかかり、先週完了したのです。
庭の中央には枯掘りのような溝を巡らせて、そこが傷んだ大地の呼吸再生の要になります。
枯れ流れのような日本庭園における造形造作も、本来はその場の環境を息づかせていのちの環境をより豊かに育むための環境装置という面が必ずありました。
失われた先人の智慧、環境を保つ技を、庭の中で未来の人たちに繋いでゆく役目、現代の造園の中で、それを担わなければいけません。
野鳥が集う庭、それは、単に特定の野鳥が好む実を植えたり巣箱や水場をつければよいというものでは決してありません。
土の中の世界を含めてたくさんのいのちの循環がことのできる、豊かな環境を取り戻し、そしてその優しく温かな木の流れの中で、小鳥たちもここで安らげ、いのちの気配に安心するような、そんな環境にしてゆくこと、そこが大切なことと思います。
小鳥が憩う水場は、浅い水盤を用います。
この水盤の下の土の中に大きな空洞を設け、土中の空気と水を動かしてゆく拠点になります。
見える造作よりも、土の中の見えない部分の造作に、より多くの配慮を注ぐことで、いのちの気配溢れる心地よい環境が醸成されていきます。
お施主のOさんは、庭にルリビタキを呼ぶのが望みです。
ルリビタキはなかなか街の中の庭には訪れませんが、おそらく、何年かすれば、きっとこの庭にルリビタキも来てくれることでしょう。
小鳥たちのための庭、この庭がそうなるように、今後も管理育成していきます。
玄関前の石畳。この周辺の植栽も含めて、昨年秋の竣工です。すでにしっとりと、土壌が育っていることが様々感じられます。
造成され、むき出しの赤土だった、痛々しい環境に、丁寧に向き合うことで再び、森の木霊たちが戻ってくる、そんな実感。
植え込みの土壌保護のためのウッドチップマルチも、呼吸する土の上で絡み合い、飛散することなく落ち着き、そしてそこに菌糸のネットワークが張り巡らせます。
この菌糸が様々ないのちを繋ぎ、生と死を繋ぎ、大地のいのちの連携をつくり、そして環境をゆっくりと豊かに育ててゆくのです。
植栽仕上げ後、わずか二か月で、こうした状態に至る、そのために、我々は土の中の環境再生に力を注ぐのです。
2か月前に植えた樹木の根を彫り上げてみると、すでにびっしりと粘菌、変形菌がまるで血管のように大地のネットワークと木々の根をつなげようと、活発に動いていることが分かります。
これを確認してはじめて、私たちの造園施工は完了です。
木々も人も、動物、小鳥たち虫たち、菌類微生物、あらゆる命が平和に共存する世界、そんな理想を庭に込めるのです。
この庭は、これから生き生きと育ってゆくことでしょう。
お施主のOさん、長らくありがとうございました。
また、お待たせしておりますお客様、心機一転、今年はこれまでにましてさらに良い空間を提供してまいりますので、どうかよろしくお願いいたします。
皆様、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。