14年目の手入れに想う 平成24年12月28日
暮れの手入れも残すところ、明日の1件となりました。「来年になってからでも構わないから」と、年明けに予定を回してくださったお客様にも、心から感謝申し上げます。
今日は、13年以上前から毎年お世話になっている地元の老夫婦、Tさんの庭の手入れにうかがいました。
当時はまだ、私が独立して間もない頃このこと、
「長年一緒に暮らしてきたキャラノキが弱って枯れそう。何とか助かりませんか。」とのお話しをいただいたのが、Tさんとのご縁の始まりでした。
その後、衰弱したキャラの処置のためにTさんに幾度も呼ばれ、そしてキャラの樹勢が回復し、新芽が出そろった時、Tさんご夫妻は、息子以上に年下の私に対して、絶大な信頼と感謝の気持ちを表してくださいました。
当時の私はまだ20代。
「庭の木ってのは、住む人にとって家族と同じなんだ。こんなに愛されるものなんだ。庭の木を扱う以上、お客さんの木を本当に大切にしないといけないな・・・。」
Tさんご夫妻の、木々に対する愛情を肌身で感じ、独立したての私にとって、とても大切なことを学ぶ貴重な機会となりました。
その後、Tさんの庭の手入れは他の人に任せるのではなく、どんなに忙しくても毎年、欠かさずに私自身がうかがい続けてきました。
いつもおいしい漬物やおいしいみそ汁を作ってくれます。
そんなご夫妻も、ずいぶんとお年を召しました。ご夫妻ともに病院やリハビリ通いで、この10数年のうちに、ずいぶんと衰えていきました。
でも、休憩時間のTさんご夫妻とのお茶飲み話は、私や若い社員たちにとって、とても貴重な体験です。
年を取ってなお、心が磨かれる美しい人柄、Tさんご夫妻の心に接する時間、いつも心が洗われる思いに満たされて、感謝といたわりの念が自然と溢れ出してくるのです。
体が痛く、歩行もままならないのに、私たち職人に対して、あふれるほどのお心遣いを欠かさない、そんなご夫妻を見ていると、これまでの10数年間のTさんとの時間が走馬灯のように懐かしく思い起こされるのです。そして、Tさん夫妻に対する感謝と尊敬の想いしか、そこにはありません。
私たちの仕事は、こうしてお客様の人生に肌身で触れ合いながら、庭を介して一緒に年を重ねてゆきます。
年内の仕事もあと1日となった今日、Tさんの庭に手入れにうかがい、この仕事をしていて本当に幸せだな、という思いがしみじみと沸き起こります。
日々、病気や体の痛みと向き合うTさんですが、つつましく、美しく、1日1日を大切に、人生を積み重ね続けているようです。
お茶飲み話の最中、Tさんの横顔を見るにつけて、仏様のように優しくて美しい表情にはっとしました。
もともと警視庁警察官だったTさん。以前、私が出会った頃のTさんは、職業柄の厳しさが時折その表情に表れていたのですが、あれから十数年、人はこれほど、柔らかで美しくなるものなのかと。
自分もこんな風に年を重ねていけたら素晴らしいなと、感動と共にTさんの美しく優しい横顔が心にいつまでも響きます。
毎年、怒涛の手入れをこなさねば、私たちに正月は訪れません。そして、手入れの時期はお客様とのうれしい再会の機会でもあります。
いつもこの時期、お客様との長年のお付き合いに感謝の気持ちと共に、お客様との絆が深まってゆき、そして同時に、私たちの心も温められてゆくように感じます。