庭・街・風景に思う

いのちの森つくり~進和学園の取り組み   平成24年10月6日

 ここは神奈川県平塚市、社会福祉法人進和学園の樹木苗育苗ハウスです。
 ここでは、シイノキ・カシノキ・タブノキなど、暖温帯気候域の森の主木樹種をはじめ、その土地本来の様々な自然樹木の苗木を栽培し、生産した樹木ポット苗を、全国の森つくり植樹現場に提供しているのです。

 進和学園では、知的障害者の就労支援事業の一環として、6年前から樹木苗の生産を始め、すでに累計7万本以上ものポット苗が、森つくりのために植樹されました。
 「いのちの森つくり」それは、私たち人間はじめ、様々な生き物にとっての生存基盤ともいえる、その土地本来のふるさとの自然環境、ふるさとの森を再生し、未来のために新たに創出していこうというものです。
 いのちの森つくりは、地球環境戦略研究機関国際生態学センター長の宮脇昭先生の潜在自然植生理論に基づき、日本から始まって今や世界各地でその土地本来の森の再生、生態系の回復のために実践されています。

 こちらの列は、岩手や宮城など、東北大震災被災地の森から採取したどんぐりや実生から育てられた苗木です。
 気候風土に適応する強い森を再生するためには、その土地の母樹のどんぐりから子供の苗木を増やすことが、樹木個体の遺伝子レベルでは理想的なようです。
 ここで育てられた東北っ子の樹木苗達は、歴史上幾度も津波に襲われてきた今回の被災地、東北沿岸地域に将来再び訪れるであろう津波から、住民の命を守るための「森の防潮堤」をつくるべく、植樹されるのです。
 この小さな樹木の子供たちには、大きな力と希望と未来があるのです。
 進和学園では、そんな素晴らしい夢と希望を持って、心が込められたポット苗が次々に作られています。

 苗床からポットに移された1年生のタブノキの苗。

 それが、2年生の苗になると葉も根も充実し、背丈も30センチから50センチとなります。
この段階になってはじめて、森に還すべく、植樹に用いられます。
 樹木ポット苗をこの大きさにまで健康に育てあげることの労力や心遣いを想像するにつけて、苗木つくりに携わる方々に対して心のそこから敬意が湧き、本当に頭が下がる思いです。

 タブノキの実です。苗つくりは種拾い、どんぐり拾いから始まります。

 採取した種やどんぐりは、いきなりポットに植えるのではなく、トロ箱に苗床をつくり、乾燥防止のもみ殻をまぶして、来春以降の発芽を待ちます。
 一つのトロ箱に数百個のどんぐりや種を撒くのです。

 昨年秋にトロ箱に撒いたタブノキが1年もするとかわいい幼苗に育っています。

 この幼苗を、根を切断しないように丁寧に、一つ一つ大切にポットに移していきます。
 今は赤ちゃんのような繊細なこの苗も、数百年という長い未来を生き抜いて、様々な命を守り育んでくれる大木になる力を秘めているのです。

 植え替え作業の様子です。一つ一つ大切にポットに移してゆく人の表情はやさしく、苗木を見つめるまなざしはまさに、希望に溢れる美しい未来を見つめているようです。

 そしてここは、進和学園就労施設「しんわルネッサンス」。その外周境界林はポット苗植えつけ後6年が経過し、ボリューム溢れる豊かな森が育ちつつありました。

 6年前に植えたのは、高さわずか30センチ程度のポット苗なのです。
 この土地の気候風土本来の森の構成樹種を50種類以上混ぜて密植し、そして6年経過した今は最大樹高8mの見事な緑の壁となりました。
 樹種豊富なこの森には様々な小鳥の声が鳴り渡りつづけていました。密植して競争を促すことで、木々の伸長成長が促進されるのです。

 「木々も人間社会と一緒で、似通った仲良しばかりの集団の中では成長しない。森の中のいろんな生き物と競争し合って初めて、その土地の素顔というべき強い森になってゆく。」と宮脇先生は常々言われます。

 この、圧倒的なボリュームの緑の壁を見ていると、「火災や土砂災害、津波などから命を守ってくれるのがふるさと本来の本物の森」、というのも納得です。

 外周林の内部の様子。マウンドが高く盛り上げられて植えられた様子が分かります。
木々はそれぞれたくましく、ポットで植えられた苗木のほとんどすべてが元気に育ち、なかなか枯死していきません。それが土地本来の樹種の強さというものなのでしょう。
 もっとも、淘汰が始まってゆくのはこれからです。

 見ていると、木々の肥大生長は同じ樹種でも極端に違っています。これは2本のヤマザクラ。同じ日に植えても、一方は太く、一方はその10分の1以下の太さにしかなっていません。
 木々の個体差、あるいはちょっとした競争の勝ち負けがこの差を生み、こうした繊細で微妙な木々の性質が、多様な森を成熟させてゆくのでしょう。

 施設食堂の窓の風景。植栽後6年で、見飽きることのない多様な森に包まれました。
 木々の合間から漏れる緑の光と揺れる葉によって、この食堂はかけがえのない安らぎのスペースとなったのです。

 この食堂、窓外のベランダに出て木々を見ます。これが30センチのポット苗密植後6年後の姿なのです。これが、潜在自然植生理論に基づく森つくりの成果です。
 しかも、この写真の植栽幅はわずか2m弱で、その外側は道路に面しているので
す。道路の雰囲気を全く感じさせない境界外周林、これも多彩な樹種が階層的に重なり合う多層群落の森ならではの効果なのです。

 そしてここは、同じく進和学園の生活介護施設「進和万田ホーム」の外周境界林、ポット苗植樹後3年目の様子です。
 3年目ではまだ最大樹高2.5m程度ですが、十分に根が充実して張りめぐらされ、ここから一気に成長してゆくのです。
 その土地本来の森の構成樹種、ポット苗の密植・混植によって、人間が管理せずとも自然の力によって、ぐんぐんと豊かな森へと着実に育ってゆくのです。

進和万田ホーム正面ロータリーの真ん中に設けられた、潜在自然植生樹種ポット苗による小さな森。これも植樹後3年です。
 ここは正面ロータリーのシンボルとして、苗木だけでなく3m程度のタブノキ、カシノキ、シイノキ3本が真ん中に植えられました。が、すでに苗木の生育が勢いに勝り、その3本を追い抜こうとしています。
 3本の移植木は、アスファルトの照り返しや夏の直射日光をまともに受けて衰弱し、頭枯れを起こしています。
 一方で、苗木たちはお互いを守りあい、確実に元気に生育している様子に、これからの街の緑化の在り方を考えさせられます。

ちょうどこの施設の隣に、大木となった樹木群がありました。クスノキとタブノキが寄り添って、まるで1本の大木のように端正な形の樹冠を形成しています。遠目から見たら、1本の木に見えますが、2本の木が長年寄り添って守りあい、この土地の人たちに見守られながら、見事な大木群となったのでしょう。
 この大木の存在がこの集落の風景となり、心のよりどころとなっているようです。

 万田ホームのロータリーに植えられたポット苗の樹木群も、100年後、この大木のような見事な樹叢となっているかもしれません。

 木を植えること、それは未来を作ることそのものです。
 地球を破壊し汚し続けてきた私たち人間ですが、未来を見つめてこうして木を植えることも人のなせる業。未来の地球、美しいふるさと、命溢れるふるさとの自然を子孫に繋いでいけるよう、本物の森つくりを私たちも進めていきたいと思います。

ご案内くださった株式会社研進の出縄社長、しんわルネッサンス主幹の遠山さん、暑い中長時間おつきあいいただき、本当にありがとうございました。

株式会社高田造園設計事務所様

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