茅場の夜明け 平成23年10月29日
早朝に、茨城県の霞ケ浦近くの茅場(かやば)を訪れました。
筑波山を遠望する広大な平野、ススキの茅場に朝日が昇り、茅穂のシルエットが美しく揺れていました。
ここは茨城県稲敷市、茅葺き屋根の材料となる茅の生産地の光景です。
美しい茅場の光景は私たち日本人のDNAに刻み込まれているようです。見ていると、どこか懐かしく、心の奥底に響き渡るような、根源的な安らぎを感じます。
このあたりで生産されるススキの茅は島茅(しまがや)と呼ばれます。
霞ヶ浦周辺の広大な平地では古くから良質で均等な茅が生産されてきました。
この土地で採られる茅はかつて、茅葺き屋根の材料だけでなく、炊事採暖の燃料としても、この地域の暮らしにおける必要不可欠な産物だったと言います。
そのため、この土地の暮らしの中で広大な茅場が必要で、この土地一体の平地は、かつては全てが茅場だったと言います。
それが、生活様式の変化と茅葺き屋根の需要激減と共に、良質な茅場も今はこのあたりではここだけとなってしまいました。
筑波山麓に再生された茅葺き民家を訪ねました。90年前に建てられた茅葺き民家が改修されて住み繋がれました。
この再生民家の改修設計監理は、筑波大学芸術学系教授で建築家の安藤邦廣先生が顧問をされる里山建築研究所です。
この茅葺き民家、数年前の建築改修の際に、茅葺き屋根も葺き替えられました。
茅葺き屋根は階層状に積み上げられて、美しい軒の表情を見せてくれます。
稲穂、古い茅に新しい茅、防水のための杉皮、そしてその外側にまたススキです。
茅葺き屋根は人にやさしく美しいばかりでなく、茅葺き民家の夏の涼しさは他の屋根材の追従を決して許さぬほどに格別です。
その上、数十年毎の葺き替えの際、大量に発生する古い茅は、一部は新たな茅葺屋根の屋根材として再利用され、そしてそれ以外はとても良質なたい肥の原料として、農山村の暮らしに欠かすことのできない再生資源となってきたと言います。
目に見える自然の恵みを暮らしに活かし、共生し、そんな暮らしがその土地の風景を作りだしてきた美しい日本の風景。戦後の日本が失いかけているものはあまりにも大きすぎます。
私たちが見失いつつある豊かな暮らし、それ一つずつ取り戻していきたいものです。
茅場の美しい夜明けの光景、それがまさにそのまま、再生日本の夜明けの光景のように思えました。