ベッドタウンの住環境 平成23年6月17日
造園設計打ち合わせのため、地元で人気の大型ベッドタウンに移り住まれたばかりのTさんの家を訪ねました。
Tさんはここに移り住んで2週間目、外構造園はこれからです。
Tさん奥様は言いました。
「密集した住宅地に住んでみて初めて、こうした住宅地がいかに落ち着きがなく潤いもなく、それが大きなストレスになるということが分かりました。
住む前、外からこの街を見ている分には、家しか見ていなかったので分からなかったけど、実際に住んでみると、窓越しに道路が丸見えで、隣家の窓が向かい合わせで気になるし、こういうところを買って住む人はみんな、こんなストレスを感じているのかなと感じています。
しかも、どこの庭も木が少なくて、この住環境に不満を持って暮らしているのではないでしょうか。」
心から同感します。
住環境意識と感性豊かなTさん奥様のような方々には、最近の大規模造成されて造られたベッドタウンには、どこか住みにくいものを感じられているようです
「大丈夫です。植栽によって居心地は格段によくなりますから。」と私はいつも言います。
密集した住環境の住み心地の悪さを樹木の力によって改善するのが私たちの提供する仕事です。
しかし、家を売ることばかりに主眼を置いて、生活者の立場を忘れた見た目ばかりの街づくりは、一体いつまで続くのでしょう。そろそろ日本の街つくりも転機を迎えねばならないと思います。
この街の一角に、昨年私が造らせていただいた庭があります。たまたま昨日の午後、この庭に手入れにうかがいました。
緑が少ない新興住宅地の一角ですが、ここだけは豊かな自然樹木越しに家が佇んでいます。植栽したのは昨年の9月ですから、施工して1年にも満たない庭です。緑はこれから1年1年と、深さを増してゆきます。
駐車スペースに面する庭の面積は約6坪程度。わずかなスペースですが、そんな小さな空間でも、効果的に植栽することによって、住まいの居心地を大きく改善することができるのです。
潤い豊かな住環境つくりのために必要なことは、決して庭の面積ではありません。
例えわずかな敷地であっても、植栽スペースの取り方、配植の仕方次第で、道路に面した狭いスペースでも、その居心地を大きく改善できるのです。
まだ植栽したばかりの若い庭ですが、年月とともに住環境の落ち着きと風格が育ってゆくことでしょう。それによって更に良い住環境となってゆくのです。
この家の中庭です。タイル張りの外空間に、1㎡程度の植栽枡を造って植栽しました。
たった1㎡の植栽が、室内3方向の窓の景を潤すのです。これがどれだけ暮らしを心豊かにしてくれることでしょう。
自分で言うのも誤解を招きそうですが、人々の暮らしの環境の中に、自然の恩恵を届ける仕事、それが私たちにとって、行者の業ともいうべき役目に思います。
その家の庭を造るのは私たちにとっては一回きりのことですが、そこに住む人の暮らしは365日、そして何十年と続くわけです。日々の暮らしの風景が潤い豊かなものであるか、あるいは落ち着かないものであるか、それは人々の心模様に大きく影響してくることでしょう。
だからこそ、造園はいつも真剣勝負です。
忙しすぎて、お客様をお待たせしてばかりで、辛くなることもありますが、今はこの仕事をやめるわけにはいきません。
多くの人が潤い豊かな自然に癒される暮らしを望んでいる中、やはり一人でも多くの家族にとって、良好な住環境作りのために、走り続けなければと思います。
多くの人にとって本当に心落ち着く暮らしの環境を再生できますように。それがストレスを軽減し、社会をよくしてゆくことと信じています。