民家の解体工事 地鎮祭 平成22年9月13日
千葉県佐倉市、Aさんの敷地に佇む入母屋造りの家屋を解体することになりました。
築40年程度の、立派な民家です。家屋を構成する主要な木材には、今では手に入れることがほとんどできないほどの、素晴らしい材料がたくさん使われていました。
解体といっても、実際には部材を取り外して、その材料を使って新たに小さな離れ家屋を再生します。
築40年程度では古民家とは言えないでしょうが、昔のしっかりした造りのこうした家屋は、今では手に入らない、再生可能な素晴らしい部材の宝庫といっても過言はないでしょう。
かつての日本、数百年という家屋の寿命を見越して、それに耐えられるように材料を吟味し、何代にもわたって積み重ねられた人間の叡智を尽くして家を建ててきた時代の産物が、今は消えつつある、素晴らしい古民家たちなのです。
解体する部材は、上手に再生すればまだまだ何代にもわたって利用できる、生きた木材です。
そこが、現代日本の2×4住宅や集成材に象徴される使い捨ての家屋とは根本的に違うのです。
日本はどこで踏み間違ったのでしょうか。世界に誇るリサイクル文化を築き上げながらも、いつの間にそれを捨て去ってしまったのでしょう。
今、日本の住宅平均使用年数は20年未満、この数値は先進国の中でも極端に低く、実に欧米諸国平均の数分の一でしかないというのが実態です。
日本という国は、先進国の中でも並はずれて、古きよきものを大切にしない国になり下がってしまったようです。
新規住宅着工数という数値が景気指標の一つとされる今の日本、モノを大切にしない、大切なことを教育しないこの国家に、一体どんな未来があるというのでしょうか。
そんな中、Aさんはやむを得ない事情でこの家屋を解体することになりました。
そして、「壊すのはもったいないので、解体して部材を取り外し、これを縮小して再生しましょう。」との私の提案を、その言葉を待っていたとばかりに二つ返事で受け入れてくださいました。
「取り壊す前に家を見てほしい。」という依頼を頂いたのが、Aさんとの最初のご縁だったのですが、実際にはAさんはもともと、再生利用を望んでいらっしゃったのです。
それがこの地やこの家屋とともに過ごされたAさんご家族の、ごく自然な思いなのでしょう。私は心から共感し、この仕事に今の自分の未来を託したいと、そんな思いさえ感じさせられました。
今週から解体作業を始めます。今日は解体前の地鎮祭が執り行われました。
この家屋を長年守ってくださった土地の神様に、解体の許しを請い、工事の安全を祈願し、そしてここに、この地の自然を敬い大切にし、これまで長年にわたってAさん家族を守ってくれた家屋を大切に再生することを、土地の神様に誓います。
現代日本においても、家屋を建てる際には今も当然のように地鎮祭が行われて、その土地の鎮守神に礼を尽くします。
私たちはこうした行事を通して、大きな自然の中の一因でしかない人間の分限というものを知り、自分たちの知恵や力を超えた存在を恐れることによって、敬虔な心持ちを養い、そして生かされていることに対する感謝の念を育んできたのでしょう。
自然を敬い、そして共存してきた日本の美しい心の名残は、今もこんなところに残されているのでした。
さて、この地を大切に思われるAさんご家族の民家の再生、そして土地の自然環境の再生、私の造園生命を賭して臨みたい、同時に、私らしく力を抜いて臨みたい、そんなことを考えながら、地鎮祭を終えました。