北アルプス 上高地にて 平成22年8月25日
北アルプスの名峰穂高連峰のふもと、上高地から本日帰りました。つかの間の夏休み(第2弾)です。
貴重な夏休みといえども当社の社員は、造園技術講習会に参加したり、あるいは京都に庭見学に行ったりと、みんな勉強熱心です。
「造園イコール人生」と考えている若い衆ばかりの中、親方の私は子供たちと山でキャンプです。
北アルプスの雪解け水を集めて流れる清涼な梓川にかかる河童橋です。この地を初めて訪れたのは15の夏ですので、今から25年も前のことになります。
清らかな梓川のはるか上流部、はるか奥に望む山並みが穂高連峰です。この景色こそ、日本アルプスという呼び名の起源となった光景です。
15歳の頃、この地から穂高の山々を望んだ時、心も頭も高揚し、自分の未来への希望が一気に広がるような激しい感動と喜びを感じたことを思い出します。
その翌年、16歳の時、この穂高連峰の主峰、奥穂高岳山頂に立ちました。登山を始めたのはそれからのことでした。
いわば、私にとって原点となる風景といえるかもしれません。
槍ヶ岳を源流に、アルプスの山々から湧き出る清らかな水をたたえて流れる梓川の美しさは、25年前と全く変わりません。
また、雪渓の雪解け水に端を発する清流の冷たさも、昔と変わりません。高校生の頃、この冷たい川に何秒間足を浸していられるか、仲間たちと賭けをしたことも覚えています。あまりの冷たさに痛くて、数十秒と足を浸していられません。
その冷たい川の水にも負けずに遊ぶ強者たちがいました。
5歳のわが長男は、水にめっぽう強く、死ぬほど冷たいこの清流に肩まで浸かって見せてくれます。わが子ながら信じられません。。。誰に似たのでしょう。。。
梓川のほとり、カラマツ林の中に小梨平キャンプ場があります。ここにテントを張って丸1日、のんびりと過ごしました。
登山を始めてからの25年間の間に、ここを何度訪ねたことでしょう。
がむしゃらに山に登り続けた若い頃、この地は登山の通過点でしかありませんでした。
ここで1日の時間をゆったりと過ごすなど、昔の私には考えられなかったことでした。
前ばかり見て走り続けていた若かりし頃の自分。今も精神年齢は全く進歩していませんが、それでも年を経るにつれて、立ち止まるということの大切さを知りました。
朝もやの中、梓川越しに穂高の稜線に朝日が輝きます。夜露にぬれた川沿いのケショウヤナギやケヤマハンノキなどの表情。同じ場所に立ち止まっていても次々と移り変わる景色の変化に心は弾みっぱなしです。
朝の上高地を当てもなく散歩します。山の伏流水があちこちから集まるこの広い谷筋には、サワグルミやカツラ、ケショウヤナギやケヤマハンノキなど、水辺に強い樹種が多く見られます。大雨の度にその流れを変える源流に、半分浸かりながらもこれらの木々はたくましくこの豊かな森を維持しています。根が水に浸かっていながらどうして生き延びることができるのでしょうか。
その秘密の一つが、この写真です。朽ちたカラマツの切り株の上からダケカンバの若木が育っています。
川の流れが変わって森の一部が流れの中に水没した後、一定の時間を耐えたのちに木々は立ち枯れて、やがて倒れます。しかし、その一部が水面上に残り、そこに樹木の種が落ちるとそこに根を張ります。こうして、こうした高山の湿地に豊かな森が更新されてきたのでしょう。
木は偉いです。本当にすばらしいです。
白樺林の中にたたずむ旅館。標高1500mのこの地は夏でも涼しく、多くの観光客が避暑に訪れます。
しかし、この涼しさの理由は、ただ高地であるからだけではないことを知っていただきたいと思います。
豊かな森があり、そして大きな木々が造る木陰、そして森の中で冷やされた空気が流れる森の中の環境が、この涼しさをつくっているのです。
ここ上高地といえども、人はやはり木陰でくつろぎます。夏の強い日差しがもたらす熱射は高地でもやはり強いのです。
もし、この上高地の森が伐り開かれてコンクリートやアスファルトにおおわれた町となって家々が立ち並び、エアコンや車の排熱にさらされると、この地も瞬く間にエアコンなしでは過ごせない環境と変わってしまうでしょう。
この上高地に避暑に訪れる客は夏だけでも100万人を超えるようです。この地を訪れて涼しさを体感した方々に、是非とも考えていただきたいことがあります。
わたしたちは自分たちの街をわざわざ暑くして不快にして、そして人工的な空調に頼らなければならない環境にしてしまっているということです。
これからも住宅地開発は進み、不快な住環境はまだまだ増えることでしょう。これでよいのでしょうか。いつまで続くのでしょうか。
樹木の力、自然の力を活かすことで、住まいの環境は大きく変わります。そろそろ、街の在り方住まいの在り方が見直されなければならないのではないでしょうか。
記録的な猛暑の中、25年前と変わらないようなこの豊かな環境を訪れて、ますます私の庭つくり、住環境造りへの情熱が膨らみます。