一年の終わりに 平成26年12月26日
師走に入り、今年最後の庭づくり一期工事が終了しました。つくば市Mさんの庭です。小学校の通学路となる角地の広い敷地、通る子供達にも楽しんでもらえるよう、木塀をセットバックして塀の前面にもゆとりのある植栽を歩道に張り出します。
春になれば新緑の淡い緑が家を包み込むことでしょう。
南側主庭。春を待ってから、芝や地被を植栽し、そして完成となります。
Mさんも問い合わせいただいてから2年以上もお待たせしての造園工事となりました。いつからか、1年以上お待ちいただける方の依頼しか、承ることができないようになりました。
お待ちくださるお客様には、実際に作らせていただく頃にはもう、感謝の念しかありません。
同時に、こうして作らせていただくことは本当に縁なんだなと、思います。
何かの縁があって、そこに庭が生まれます。そして、その後5年10年と、庭の管理を通してご縁は続き、庭やお施主家族との時の流れの中に発見があり、思い出があり、喜びもあります。
ふと、これまでいくつ庭を作ってきたことか、そしてこれからまた、どれだけ新たな庭を作ることだろうか、そんな想いがよぎります。出会いと縁は自分の糧となります。これからもずっと、与えられたご縁を大切に、来年も歩んでいきたいと思います。
造園工事の際の視点で今年、新たに増えたことがあります。それは、土地の改変等によって壊された土中の気脈水脈を再生するという視点です。
それは植栽した木々の健康のためだけでなく、その土地が自律的に大地の健全性を取り戻し、豊かな土中生態系を再生してゆくという視点で、造園工事の際に水脈改善のための作業を必ず行うようになりました。
大地の健全性は、その土地の空気の流れをも変え、人にとっても快適で健康な本来の生活環境をおのずと作ってくれるのです。
写真の竹筒の頭が土中から飛び出している光景、高田造園の完成直後の庭ではこの光景が標準となることでしょう。
竹筒は数年で腐り、なくなりますが、その頃には木々の根がその縦穴にびっしりと張りめぐらされ、滞ることのない大地の呼吸孔としていつまでも機能し続けるのです。
ここは工場跡地の臨海埋立地、ジェフ市原のホームグランド、フクダ電子アリーナ正面広場です。埋立地の劣悪な土壌環境と海から常に吹き付ける潮風にさらされ、植栽された木々が健全に育たない中、写真奥の密集した木立はこんな環境でもひときわ健全に生育しています。
この木立は一昨年の秋、、コナラやシイノキ、カシノキなど、千葉のふるさとの木々を組み合わせて植栽し、そして2年が経過しました。
潮風にさらされる、植栽樹木がなかなか健康に育っていかない土地条件のもと、、この木立だけは健全に力強く、競争しながら伸びていました。
2年前、固く締め固まった土地を人の背丈ほども掘り下げて、そして下地の硬板層に穴をあけて水脈を取り、水と空気が円滑に流れる土壌環境を作りながら植栽したのです。
結果は明らかで、この公園のどの木々よりも健康に、元気に生育していました。その間、ほとんどメンテナンスはせずとも、こうして木々自身の力で健全に生育してゆく様子に、感慨無量な想いに包まれます。
人の暮らしの環境に木々を植えるということは本来、人の幾世代もの先のスパンで考えていかなければなりません。
人間よりもずっと寿命の長い木々は、健康に大きくなってこそ、そこに豊かな環境を作ってくれるからです。つまり、植栽して、それが健全に育って自分の次世代、その次の代を見据えて植栽してゆくこと、つまりは、自然環境再生につながる形でしかあり得ないということに、はっきりと気づきます。
再開発などと言う名の、壊しては作る、その繰り返しの果てにどんな未来があるというのでしょう。人は健全な自然環境あってこそ、継続的に生きていけるという本質も、今のマネーの論理の中で見失なわれつつある中、造園という仕事から、今の時代に発信していかねばならないことがたくさんあるのです。
庭を作れば作るほど、毎年うかがわねばならない手入れの件数は増え続けます。ここは2年前に施工した、埼玉県草加市のKさんの庭です。2匹の大型犬と家族がともに自由に過ごせる場所がこの庭です。
2年を経て、庭はどこから見ても落ち着いた表情を見せてくれます。
密集した住宅地の真ん中に、この庭があります。それ故に、この庭は家族だけでなく、周辺の家の方にとっても癒される貴重な緑の環境となり、さらには様々な小鳥たちもここを訪れます。
「小鳥がたくさん来るので毛虫もほとんどいないです。」とKさんは言います。
もちろん、農薬散布などは決して行わず、自然の循環の中で自律的にコントロールされて快適な環境を作ってくれる、それがこれからの庭の理想なのかもしれません。
庭の中の落ち葉ストック。スペースがあればなるべくこの落葉ヤードを庭に取り込んできました。これ一つで、落ち葉とサンドイッチしながら1年分の台所の野菜くずが土に還るのです。しかも、水と風をコントロールすれば嫌な臭いもまったく湧きません。
落ち葉や野菜くずをゴミに出さずに大地に還元してゆく、それを知ることは大きな喜びをもたらし、そして、未来につながる地球の環境を育てることなく食いつぶしながら生きる社会の罪深さに気づくのです。
今再び、実感を持って自然と向き合い、感じ取ること、それが人や社会の健康、存続のために不可欠なものであることを、この仕事を通していつも感じるのです。
今年から始めた高田造園の自然農園、霜に耐えながら五月菜が青々と寄り添い、、春の訪れをひっそりと待っているようです。
この菜園も、もともとは締め固められて硬くなった土地を水脈改善し、そして剪定枝葉をリサイクルしてできた腐葉土を漉き込んで畑にしました。
肥料も特に与えず、また、一度作った畝を耕すこともありません。この畝の土の中には、様々な土中生物が生態系を作り上げていきますから、それを再び壊すような耕起はせず、自然と寄り添いながら野菜を収穫してゆくのです。
これまで、収穫の度に耕していたときに比べてはるかに作業は楽しく、感動や発見も多く、そして収穫も多く、大地の動植物との共存が実感されます。
造園も農も、対話するように自然と向き合うことで、行きつくところは豊かな自然環境の中で共存してゆくあり方なのだと気づきます。
そして、社有林に小さな小屋が建ちました。構造材や建具はすべて、古民家を解体した廃材を用いています。
小屋の中には広い土間に薪ストーブ、そして6畳一間の小さな部屋。懐かしい空間と温かな木の香り、来年にはこの森の中にもう一棟山小屋を建て、そこがこれからの私たちの活動の拠点となります。
今の都会の人たち、現代の子供たちに自然と共にあったかつての農山村の楽しみを体感してもらう、そんな場所にしていけたらと考えております。
そしてここは、来年立ち上がるNPOダーチャサポートの一つの活動拠点になるのです。
今の時代、豊かな未来は失われた過去の中にある、そんな言葉が脳裏によぎります。私たちは今、失ったものを取り戻さねばならない時期に来ているようです。
日本社会に暗雲が色濃く立ち込めるここ数年、私たちはあきらめるのではなく自律し、そして本当の豊かで美しい日本を取り戻していくべく、確かに歩んでいきたいと思います。
こんな時代だからこそ、エネルギーが高まり、そして人も集まります。
そして、小屋の脇にはハンドメイドな茅葺きトイレが完成です。素掘りの穴に用を足したら落ち葉と木炭をぱらっとかぶせる。水分の調整を炭と落ち葉と素掘りの穴がその役目を果たすのです。素掘りの穴に空気を通せば臭いも湧きません。
そしてそれをまた、大地の循環の中に還してゆくのです。
今年は様々な新たな気付きがありました。それも、様々な人との出会いのおかげです。
また、本年中に手入れに廻れなかったお客様、工事をお待たせしているお客様に、この場でお詫び申し上げます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。