ボルネオの山地多雨林 平成25年10月16日
ここはマレーシアボルネオ島北部サバ州、標高4000mを超えるキナバル岩峰群。
10日ほど前、この山を訪れました。キナバル山域には6000種以上もの植物の他、生育する哺乳類が100種類以上が確認され、世界有数の生物多様性に富む山地熱帯林が広がっています。
標高4095mのキナバル山はマレーシア最高峰で、山麓から山頂まで、非常に変化に富む自然の様相を見ることができます。
どんぐりを落とすオークの木が高木層に多い標高1500mから2000m辺りまでの森を見上げる。
低地多雨林では、樹高100mものフタバガキ科樹木を主体とする超高木が森の林冠に突出するのが熱帯雨林の特徴のように伝えられることが多いのですが、標高1500m以上の山地多雨林となると超高木の突出は見られず、ブナ科のカシ類が高木層を占め、その樹高は大きなものでも40m程度、その下に幾層もの樹木が階層的に連なり、うっそうとした深く多様な森の様相を見せます。
標高2000mを超える頃、熱帯オーク主体の森の中にヘゴなどの木性シダ類が目立ち、熱帯地方でしか見られない林相が感じられます。
林床のシダ、開葉の様子。熱帯の植物はまるで動物のように盛んな動きを見せるように感じます。
尾根筋に現れるヤブレガサウラボシ。
幹に着生するオオタニワタリ。
年間を通して雨量が多く、空中湿度が常に飽和状態に近い林内の太い幹は分厚い苔に覆われ、ランなどの着生植物やつる植物がまとわりつきます。
有名な食虫植物、ウツボカズラも様々な種類が見られます。
林床だけでなく、空中にぶらさがるように群生するウツボカズラも見られます。大きなものは虫だけでなくネズミなどの小動物を飲み込んで分解してしまうと言います。
標高3000m前後あたりから、ナンヨウスギやポドカルプスなどの針葉樹が目立つ樹木に覆われてきます。それでも林床にはシダやヤシ類が見られるのが何とも面白い光景です。
高山の厳しい風の影響で木々の樹高もこの辺りになると低くなり、高山の様相が感じられます。
日本の中部山岳では、2400m程度で森林限界に達しますが、熱帯多雨地域の山岳の場合、3500m付近まで森に覆われます。上から下まで落葉樹が見られないのも、日本とは異なります。
標高3400m付近、夕暮れ時の雲海。
花崗岩の巨大な岩盤で覆われたキナバル山頂部。全体が1枚岩のような岩峰です。
下山路。ボルネオの山襞。
キナバルの麓、広大な山地多雨林を見下ろす。山麓を覆い尽くすこの地域の山地多雨林は世界でもっとも古くから存在し続ける森と言われます。その生物多様性は今や世界随一とも言われますが、その森も、麓の開発によって分断され、徐々にその多様性を失いつつあるようです。
有用樹種の多い低地の豊かな熱帯雨林は、東南アジアではほぼ木材採取のための伐採の手が入り、開発されつくされつつあり、今や一部の保護地域や奥地の山地だけが、失ってならないはずの地球財産としての豊かな熱帯の森を今に未来に伝えているようです。
高木の根元、板状に樹体を支える巨大な板根。標高が下がるにつれて、低地熱帯林に見られる、板根の発達した巨木が多く見られます。
有機物を多く含んだ表土が非常に浅い熱帯の森では直根を発達させることができず、こうした板根の発達によって100mにも達するというタワーのような樹体を支えているのです。
土壌の断面。腐植を含んだ表土層はわずか数十センチ程度で、その下には酸化鉄や酸化アルミニウムを多く含む痩せた赤い酸化土壌の層が続きます。
こうした熱帯土壌はの特徴は、気温が高くて落ち葉や有機物の分解速度が非常に速い上、雨量が多く養分が蓄積せずに溶脱してしまいやすいことから生じるようです。
開発された熱帯の森が容易に再生されないのも、こうした土壌条件が大きな要因になっていると言えます。
麓の農村。痩せた土壌のこの地域ではつい最近まで森を焼いてその養分を利用して作物を作る焼き畑農業が主体だったと言います。今も、広大な焼き畑跡地が草地のままで残り、そこはなかなか本来の森には戻っていかないようです。
こうした跡地は、肥料多投に支えられる農地として、あるいは開発用地とされていきます。
生き物の気配溢れる豊かな熱帯の森を次世代に伝えていかねばなりません。