つくば市、緑・住・農一体型住宅地の緑地改善 平成26年12月1日
ここはつくば市の新興住宅地、春風台。緑・住・農一体型分譲区画の風景です。
豊かな菜園の実りあるこの風景が、ここわずか2~3年程度で分譲、建築された住まいの風景と思えるでしょうか。
これは紛れもなく、今年7月にここに家を建てて越してきたばかりの方の住まいからの風景なのです。
関東平野の名峰、筑波山をまじかに仰ぐ広々とした台地に、この土地の自然環境を調和した、豊かな住環境を創造する、新しい住宅地作りの取り組みがここで始まりました。
緑・住・農を一体として提供する、一区画200坪の住宅地には、接道部分に道路から奥行き12m、面積60坪もの景観緑地を有し、そして家屋敷地の背面に、奥行き7m、面積40坪程度の菜園用地を有します。
これらの緑地や農地を挟んでゆったりとした住環境、そして隣接家屋とも程よい距離感を保つ、そんな魅力的な街づくりがここで始まりました。
この街づくりを提唱し、主導してこられた地元の地権者で物理学者のS先生は、言います。
「今の日本の住宅環境はあまりに悪すぎる。特に最近の新興住宅地の環境ははますます狭く、潤いもない。そんな環境では人間関係もコミュニティもなかなか育たない。
海外の研究者仲間たちは、日本には短期滞在はしてもいいが、長期にわたって家族を連れて住むことなど絶対にできない、と言う。それ程今の日本の住環境は悪すぎる。
人が心地よく住み続けられる環境とはどういうものか、そこから考え直し、意識を変えていかないと、日本はますます世界から取り残されてしまうだろう。」
S氏はまた、地元で里山育成活動にも関わられており、ここに新たな日本の美しい、自然と調和した現代の暮らしの環境を再生したいとの想いから、粘り強く市や地元住民に働きかけ、そしてこの新たな街つくりを主導されてきました。
ところが、緑地部分の土地の移管を受けたつくば市によって3年前に植栽されたコナラとヤマボウシの状態が悪く、今回私はS氏から緑地診断の依頼を受けてこの地を訪れました。
原因は一目瞭然で、ほとんどの木々が根腐れ、根詰まりを起こしていたのです。もともとこの土地は広大な畑に屋敷林が点在していました。それが住宅開発のための造成工事によって一斉に表土がはぎ取られ、重機で蹂躙されて締め固められました。そんな環境に木を植えても、健全な木々の状態が得られるものでは決してありません。不健全な環境は意識せずとも人の健康や快適性に大きく影響を及ぼします。
本来の大地の循環を壊して不健全な住宅環境が量産される現状、それは現代の大規模住宅開発や土木工法に、根本的な問題の一つがあります。
この緑地の植樹は3年前、この土地本来の代表的な里山樹種であるコナラにヤマボウシが一本ずつ、列状に植えられ、そして今、ほとんどすべてが成長せずに傷んだり枯れたりしています。
こうした、本来山の自然樹木を、蹂躙されて締め固められた土地に単木で植栽されれば、健康を維持できずに傷むのは当然のことなのです。
木々と共にある健康な住環境、住宅地を作ろうと思えば、従来の開発の在り方ではなく、もっと自然に寄り添った形の、その土地との付き合い方、あるいは自然環境へのインパクトの少ない改変の仕方がなされねばなりません。
自然破壊型の開発から、自然環境再生型の住環境つくりへ、発展させていかねばなりません。
つくば市内を流れる桜川の畔から、周囲を見ます。広大な水田の向こう、段丘状の山並の上に、この春風台住宅地が開発されました。森の畔には、旧来の集落が連なります。
これが本来の中山間地域の住まいの在り方と言えるかもしれません。裏山の木々は大地を吹き荒れる季節風から住まいを守り、そして、森の木々に寄り添うように住まいが連なる。
一方で、春風台住宅地が造営されたこの段丘の上の台地は、時期によって遮るもののない風が吹き荒れます。そこに家を建てて住む場合は、かつてであれば屋敷林の存在が不可欠だったのです。
春風台住宅地の下の旧集落。裏山の幸や湧水を利用して、昔からこうした土地には人が定住してきたのです。それが長年暮らし繋いでゆくうえで、人々にとって暮らしやすい環境だったのでしょう。
ところが春風台開発地の下、旧集落の裏山であるこの斜面林でも、開発後に異変が生じてきたのです。
斜面林内の300年生の杉の大木が、開発後に次々と枝枯れをはじめ、1本、また1本と、枯死していったのです。
この原因は明らかに、上部の住宅地開発に伴う地下水脈の変化に起因します。
乾燥に弱い杉の大木から順に、水脈の変化の影響を受けてしまったのです。
開発に伴う水脈の変化の影響は、周辺環境の広範囲に及ぶのです。
緑・住・農の一体型の住宅地という素晴らしい理念。それが新たな日本の、美しい住まいの原風景となりえるためには、単に緑地の木々だけでなく、この住宅地を取り巻く大地の環境から改善し、その後自然の作用によって自律的に環境改善されてゆく、そんな改修が必要です。
傷んだ木々、枯れた木々、その理由など、住民の方々に集まっていただき、この木々たちが置かれている今の状況を説明し、問題意識を共有します。
この町に住まれる方々は、豊かで健康的な緑と共にある環境を望んでおります。自然豊かで美しい環境を育ててゆくために、何が問題で何をすべきか、住民方々にきちんと説明し、合意を得て、改善のための道筋をつけていかねばなりません。
そして、住民や地権者でつくられる街づくり協議会の要請を受けて、緑地改善のレクチャーを開催いたしました。
私が提唱する改善のポイントは以下の3点にあります。
1.配植、植栽組み合わせの改善
2.植栽部分の土壌改善
3.緑地全体の地下水脈の改善
この三点の改良が適切になされることで、どんな土地でも必ず木々は良くなり、本来の健全な成長を取り戻すのです。そればかりか、一度は途絶えた周囲の自然環境も良好に改善されてゆくのです。
住まいの自然環境を健全に再生すること、それが暮らしの環境を愛着と温みりあるものに育て、そしてそれが本来の郷愁を取り戻すことに繋がります。
そのためには、木々も大地も本来の健康を取り戻さねばなりません。
そんな住環境つくりが真剣に考えられ、実践される、そんな胎動がこの街に感じられます。
春風台 緑・住・農。一体型住宅地、その緑地の改善工事は来年冬から始まります。改善工事の様子は順次、ブログにて紹介していきたいと思います。