つくば市春風台の環境改善工事 平成27年2月26日
つくば市の大型新興住宅地、春風台の緑地環境改善工事の開始です。
この住宅地は、自然環境共生型の暮らしを理念に掲げ、住宅一区画につき、接道部分に約60坪の景観緑地、そして家の背面に約40坪の農園スペースを兼ね備えた、合計109区画の未来志向の住宅地です。
この日の作業は、緑地の通気浸透水脈改善と、健全な雑木林再生型植栽モデルのデモンストレーションです。
春風台の住民方々や地元造園業者方々が入れ替わり立ち代わり訪れ、興味深く見つめる中での作業となりました。
6年前に新興住宅地として開発造成され、そして植栽された木々は数年経過した今も状態が非常に悪く、次々と衰退・枯死が進んでいます。せっかく景観緑地の理念を持って、広大な緑地スペースを確保されたのに、植えられた木々が元気でなければなんにもなりません。
どうしてこうなってしまったのか、その原因は、開発造成に伴う土壌環境の悪化にあります。
これを改善して、健康ないのちを育む大地環境へと再生してゆくためには、単に従来のような根鉢周辺の土壌改良や客土だけでは対応できなくなってきました。
長く造園の仕事の中で木々に向き合い、土に向き合いながら、悪化し続ける大地の環境に気づきます。
普段は目に見えない土の中で今、何が起こっているのか、それを人に伝え、仕事の中で改善の手立てを施してゆくこと、これからの開発、これからの造成においてますます大切な考え方となってゆくことでしょう。
地元協力業者によって、衰弱した高木の掘り取りと工事個所の芝剥がしが前日になされ、いよいよこの状態から、確実に木々が健康に育ち、土壌環境が健全化してゆくための工事実演です。
高木植栽箇所は60坪の緑地区域に3か所設けます。
植栽部分の掘り下げの後、その四隅に縦穴を掘り、節を抜いた竹筒と、木炭を中心とした通気改善資材で縦穴を埋め戻します。
土壌の通気浸透性が悪い条件下で、土壌環境を持続的に育み、そして木々を健康に育てるためには、この縦穴による土中深部までの通気浸透改善が決定的に大切なこととなります。
悪化した土壌環境の下では、単に植栽のための植穴だけ土を入れ替えても、その土は一向に良くなっていかないどころか、植穴の底に新たな不透水層を作ってしまい、それが滞水を促し、徐々に根を腐らせてしまうことに繋がる結果を招くこともよくあるのです。
「客土・土壌改良」までは、従来の造園作業の中で普通に行われてきたことですが、それが効果的な結果につながるのは、元の土壌の通気浸透能力が健全であるか、あるいは健全に再生されてゆく状態である場合に限られることなのです。
ここまで自然環境を悪化させてしまった今、根本的な大地の呼吸から再生してゆくのための手立てを打っていかねばなりません。
縦穴通気口設置後、植穴の下地土壌を重機でほぐし、乾燥枝などの有機物や木炭をサンドイッチしながら土を埋め戻していきます。
土中の水脈が再生されると、この植栽マウンドから表層水が吸い込まれて動き出し、同時に空気がストローのように土中深くへと吸い込まれていきます。
それによって、土中深い位置にまで、様々な生物が生育できる環境が広がっていきます。そしてそれが土壌の団粒化を促し、樹木の根が深部にまで入り込んでゆきます。乾燥枝はいずれ腐って土に還ると同時に、その頃には絡みついた木々の根が太くなって、敷き枝に代わって土圧を支え、通気環境が持続的に維持されるのです。
表土の埋戻しには、既存の土にバーク堆肥等を混ぜて改良して埋め戻します。
土中環境再生のためには、地形落差が必要で、ここでも植栽地を盛り上げて、土中水が動きやすい環境を作っていきます。
また、雑木植栽はこうして根鉢が接するほどに密植することで、木々の共存効果と競争効果が植栽直後から始まり、早く健全な状態へと生育していきます。
同じ作業を繰り返して、2つ目のマウンド植栽が完了し、木立越しに家屋風景に奥行きが感じられ始めます。
3か所の植栽マウンド完了。1区画の景観緑地にこうして3か所ずつ、互い違いに植栽していきます。
これは平坦な大地を吹き荒れる強風を緩和する上でも効果的な配植となります。
さらに、この住宅地全体の大地の血管ともいえる通気浸透水脈の再生のため、敷地の接道側に空堀を掘り、その要所にまた、縦穴通気浸透孔を設けていきます。
これを、この水脈が停滞した住宅地全体で行うことで、造成前の健全な土中環境を再生してゆくのです。
横溝の水脈も、地形や植栽配置に応じて緩やかにカーブさせていきます。地形に逆らわず、その土地の特性に応じた曲線で配してゆくこと、このことが実は非常に大切なことなのです。
自然界の表層環境は、水と風とが動かして、落ち着かせていきます。そこに直線は決して存在せず、水の動きや空気の動き、それに土質、地形、生物環境とが、なだらかな流線型の地形環境を作って大地を落ち着かせていきます。
だからこそ、地形に逆らわずにつくられた昔ながらの田舎道には直線はなく、それが自然の力を妨げないがゆえに、大掛かりなメンテナンスを要せずに何百年と保たれるということは、各地の山中の古道を見れば明らかに理解されます。
そんな自然の働きを顧みずにつくられた直線的な構造物に対しては、自然界はそれを壊して安定させようという作用が働きます。そして人間はまた、壊されまいと、自然環境に対して強力な機械力で対抗し、そこに尽きることのない、自然と人との対立が生じます。そんな、これまでの開発の在り方を、大地の呼吸が完全に止まってしまう前に見直さればなりません。
固い土を穿って溝彫りすると、表層土の断面が見えてきます。芝生地面の下に10センチの位置に固く、通気不全の環境下で青く変色しつつある、土層が形成されていることが分かります。
この環境では通気も水も滞り、生物環境は極めて単純で不健全なものとなっていきます。
この住宅地が農地転用を経て開発されたのは6年前のことですから、この硬板土層が形成されたのは、その後のわずか5年程度のことなのです。たった数年間で、広大な大地がこうして不健全な状態へと変貌し、生き物が健康に生育できない環境を次々に広げてしまったのです。
日本の大地は、私たちの今の暮らし方によって知らず知らずのうちにこうして、その命の源である豊かな土壌環境から失ってしまいつつあるのです。
その先には、人間が健康に生きてゆくための未来の環境はないのです。
よい暮らしの環境を提供するのが造園の仕事であるのなら、見た目ばかりでなく、こうして足元の自然環境から健康に再生させてゆくことが、今後ますます必要とされることでしょう。
大地の環境を改善しながらの植栽工事は大変な重労働で、一日の工事が終了する頃にはぐったりと疲れ果て、日が陰ります。
でも、やりがいのある仕事です。この街全体がこうした作業によって素晴らしい環境へと再生される日が目に浮かびます。
私自身、土中の水脈環境にまで目を向けて、その改善に本気で取り組み始めたのはほんの半年前からのことです。
それまで、私は健康な自然環境を庭に作ると言いながら、実際には目に見える地上部の環境にばかり配慮してきたのかもしれない、そう反省しています。
実際、これまで作ってきた庭の中でも、健康な環境へと育つ場所もあれば、そうではなく、木々に精気がなく活力ある環境へとなかなか育っていかない場所も確かにあります。
根本の原因は大地の通気環境にあることが、今ははっきり分かります。
どんな環境においても木々を元気に育てたい、生き物のにぎやかな気配溢れる環境を庭に作りたい、そんな想いで健康な庭つくりを追及してきたその果てに、大地の呼吸の問題に行きつきました。
健康な未来は健康な大地の環境を再生することなくしてあり得ません。
3月21日、カフェどんぐりの木でのお話会では、この大地の環境について、優しくご説明いたしたいと思いますので、多くの方の申し込みをお待ちしております。
お話会のご案内はこちらより。