豊葦原瑞穂国(とよあしばらみずほのくに) 平成23年9月10日
民家研究の第一人者として著名な安藤邦廣先生の講演会のため、竹中工務店東京本店を訪ねました。 筑波大学教授の安藤邦廣先生は、自らの足で日本各地をくまなく歩き、世界中の民家を踏査し、そのフィールドワークからの体感を通して、風土に育まれる民家、民家に代表される日本の建築文化を研究してこられました。
同時に、現代の建築家として、日本家屋の伝統に学んだ、持続可能な今後の日本の家造りを提案し、着々と技術を積み重ねて実現されておられます。
かつての日本の豊かな建築文化を見直し、現代日本の新しい住宅として再興しようとされている、先見性と実行力を兼ね備えた、私が最も尊敬する研究者、建築家の一人です。
竹中工務店本社前にて。今回の講演会には、社団法人日本庭園協会東京都支部の役員方々と一緒にうかがいました。
右に、いつも私の写真の片隅にさりげなく入ってくるのは、毎度おなじみの私の友人、藤倉造園設計事務所の藤倉陽一氏です・・・。
安藤先生の講演会テーマは、「里山に学ぶ 草と木でつくる屋根」というものです。
その土地の生活文化や自然と共存して持続的に成り立ってきたかつての日本建築文化と技術、こうした講演会が日本最大手のゼネコン本社で行われることに、大きな時代の流れを感じます。
そこにある自然の材料で家をつくり、農林業との関わりの中で、その植物由来の建築素材が永続的に産出されてきました。風土に密着した暮らしの在り方が、その土地における理にかなった家屋が持続的に生み出されてきたのです。
農耕の起源以来、日本民家の主流であった茅葺き屋根は、農林業を営む暮らしを通じ、様々な形で草を循環的永続的に利用してゆく生活文化の中で、広大なススキ野原や葦原にイメージされる茅場と言われる草原が農村周辺に維持されてきました。
安藤先生は言います。
「農林業の衰退とともに茅場も茅葺き屋根も急速に姿を消しつつあるが、未来における農林業復活の象徴として茅葺きの風景を伝えていかねばならない。」
かつての日本には、農村の周辺を中心に、茅場と言われる草原が農地面積以上に広がっていたと言います。
その面積は、実に日本の国土面積の30パーセントに達した時期もあったそうです。
今回の講演会で、安藤先生が引用された、印象的な言葉があります。
「豊葦原瑞穂国」(とよあしはらみずほのくに)
古来より、日本国の美称としてこう呼ばれてきました。
豊かな葦原(茅場の草原)と瑞々しく美しい稲穂の実る美しい国、といった意味で、自然と共存してきた暮らしと共にあった日本の美しい原風景が、この美称に表現されています。
土曜日の今日、私の部落では稲穂の刈り取りがあちこちで始まりました。
刈り取ったばかりの乾いた香りと差し込む夕日に、秋の気配を感じます。
日も暮れかけて、夕暮れの空に月が浮かぶ頃、今日の刈り取り作業は終わります。
田んぼの向こう、山間の空が淡い夕焼けに染まります。
月に浮かぶ上がるうろこ雲、秋の空と月の明かりが我が家周辺の里山のシルエットを幻想的に見せてくれます。
これらは今の私にとっての日常的な光景ですが、ここに住む幸せをいつも実感します。
こうした光景に懐かしさを感じるのは、日本人としての遺伝子のせいなのでしょうか。
美しい日本、かつての矛盾のない持続的な暮らし、新たな時代の黎明、その指針は温故知新に気付くことの中にあるのかもしれません。