庭・街・風景に思う

夏の終わりのひとコマ   平成23年8月28日

 朝夕の涼しさに、夏の終わりを感じる今日この頃です。子供の頃の、夏休みの終わりの切ない記憶が蘇るようで、少しさびしさを感じます。

今朝は造園設計打ち合わせのため、東京都八王子市Sさんの家を訪ねました。

 右手前が、この地に住み続けてこられたSさんの家です。片倉城址にほど近い、なだらかな丘陵地。つい数年前まで、Sさんの家の周囲には雑木林が広がる、のどかで美しい丘陵地だったようです。
 沿線沿いの郊外の里山の宿命か、ここにもついに宅地開発の手が伸びて、そして豊かな雑木林はあっという間に消え失せてしまいました。
 Sさんは、失われた雑木林の環境をご自身の庭に再現したいと願い、私のところに造園設計のご依頼を下さいました。

「郊外の自然に囲まれた閑静な住宅地」・・・開発販売業者は郊外の大規模住宅地開発の際にしばしばそうそう言います。
 しかし実際には、その土地の豊かな自然を一木一草すべて取り除き、長年にわたって培われてきた自然の絆のすべてを破壊して、ボンボンと家を建ててゆくのです。
 都市近郊の住宅開発の在り方は、100年前の田園都市開発の失敗を何も活かしていないようです。
 トトロの森 狭山丘陵から、多摩丘陵の森、東京では今もなお、郊外へと貴重な自然や農地の破壊と収奪が続けられます。
 どうしてもっと、その土地の自然環境を尊重して活用した街づくりへと発展しないのでしょう。
 本来の森を残しながら、森と共存する町づくりがなされれば、その町の環境や微気候はどれほど過ごしやすいものになるでしょう。
 その土地の歴史を刻んできた木々や森の環境は、一度失ってしまえばそれを再生するのは容易なことではありません。

 数日前から読み始めた本です。不世出の植物生態学者、宮脇昭氏と、高度経済成長期の超高層ビル建築の最先端を担ってきた建築家、池田武邦氏との対談です。
 池田氏は40年前の宮脇昭氏との出会いによってご自身の仕事の方向を見直し、そして自然と共生でき街や建築のあり方を志向してこられました。
 
 大震災に端を発した未曾有の原発事故、私たちは、今こそ、戦後から高度経済成長を経て、時代の変遷とともにすでに形骸化した経済至上主義的な価値観を見直すべき時に来ていると思います。そこに、これからの将来の希望がかすかに見える気がします。
 そんな私の思いに、この本は確信を与えてくれました。

 本の中で、宮脇昭氏はこう言います。

「今や、私たちは刹那的には豊かなモノとエネルギーに支えられ、最新の科学・技術、医学の発展の上で、全てが人間の思うようになるという錯覚・傲慢さを捨てて、もう一度謙虚になって、自然のおきてに従って確実に未来に向けて生きてゆかねばならない。
 世界各地で起こっている戦争や様々な社会問題だけでなしに、すべての人間は、自然の掟、システムの中でしか生きていけないという冷厳な事実を再確認し、今私たちは何を考え、何をなすべきか。」

 今年は多くの日本人にとって、特別な年になりました。第2の敗戦を味わっている、そんな気がします。個人も社会も、ここからスタートしなければなりません。新たな時代に通用する価値観で良き方向へと進むチャンスとしていかねばなりません
 永続的で確かな価値観が見直される時代はすぐそこに来ているかもしれません。しかし、それを良き社会つくりに活かしてゆくにはたくさんの障害があることでしょう。そこに人間の欲望という根源的な価値観との折り合いをつけねばならないからです。
 万難を乗り越えて、後世のため、子供たちのために良き環境を再生していかねばならないと思います。

 さて、夏休みの終わり、今日のひとコマひとコマを、買ったばかりの一眼レフで捉えてみました。

 毎度おなじみの、西側の樹木越しの我が家の風景です。久々に庭の木々の状態チェックです。

 葉を食い荒らされたシナノキには、イラガの繭があちこちについていました。これを一つ一つ取っていきます。羽化させてしまうと、また卵を産みつけに来てしまいます。
 夏の厳しい日照によって水分不足に陥った落葉樹にイラガは襲いかかります。
 イラガはモミジやカキなど、落葉樹につくものと思われがちですが、そうでもありません。健康な木や葉にはつかないのですから。
 庭の木々は、その木の健康な環境造りから考えていかねばなりません。
 イラガの繭は直径一センチ程度ですぐに判別できます。これをチェックしていれば、被害を防ぐことは容易です。

 樹木の放射線量をチェックします。これは剪定枝を堆積している落ち葉ストックヤードも同様にチェックします。
 今のところ、落ち葉にも樹木の葉にも、特に高線量な場所は見当たらず、大体、毎時0,1マイクロシーベルト前後で推移しています。
 雨樋はやや高く、毎時0,13マイクロシーベルトを計測しました。
 落ち葉を再生した腐葉土は毎時0.1マイクロシーベルト、これは南関東の平均的な土壌と比べて同程度の線量と考えられます。
 とりあえず、剪定枝をリサイクルした腐葉土を庭に用いても問題となる線量ではありませんが、今後も注意深く計測していこうと思います。

 原発事故による放射能は、それでも確実に私の地域まで汚染してしまいました。
 これまで私は、そこに住む家族の健康的な暮らしのために注意深く素材を選び、化学農薬や揮発性防虫防腐剤などの有害な素材や、環境を破壊する持続性のない素材の使用は極力避けてきました。
 しかし、空から舞い降りる放射能は、そんな私たちの努力を根底から容赦なくひっくり返してしまいます。

日向ぼっこ中のヤマカガシ。奥歯に毒腺があるので一応毒蛇ですが、おとなしくてかわいい蛇です。めったに咬みつくことはありません。

 付近の雑木林にて。荒々しく雄々しいクヌギの幹。
 買ったばかりのデジタ
ル一眼レフカメラ、今日はその撮影練習です。

森を歩く子供たち。

撮影技術はまだまだですが、カメラの性能がよいとそれだけで躍動感のある写真になります。
うれしいいい、です。

雑木林の上のコスモス畑に秋の訪れを感じます。

風に揺れるコスモスの花。

 そして、収穫間近の田んぼの様子。たわわに実った稲穂も、ここ数日の豪雨のために倒れています。いつもの秋の光景です。

 さて、また今年も夏が終わり、実りの秋を迎えます。
 木々や空の変化が私たちに季節の移ろいを感じさせてくれます。

株式会社高田造園設計事務所様

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