森の生態系 真鶴半島にて 平成23年2月1日
先の週末、小田原市のTさんの庭の訪問ついでに、真鶴半島の森を歩きました。
太平洋に突き出た真鶴半島周辺の海は、はるか昔から良好な漁場として利用されてきました。
今、半島の豊かな森は、国によって「魚つき保安林」に指定され、保護されています。海岸に隣接する森から供給される有機物などによって海中のプランクトンが増えて、それが魚の餌となって豊かな漁場が形成されるのです。
海の生態系と森の生態系はこんなところでも繋がっています。
半島の豊かな森の中には、樹齢数百年というマツの大木が、独特の風格を持つ風景をつくっています。
豊かな森と美しい海、真鶴半島のほぼ全域は神奈川県立自然公園として保護されています。
深い森の中には、この土地本来の自然樹林構成樹種であるクスノキやシイノキなどの巨木の他、杉やヒノキ、それにマツの巨木が混在しています。そんな森の様相が、この森が長い歴史の中で、人間との関わりを通して様々に森の姿を変えてきたことがうかがえるのです。
海とともに生きてきた半島住民の活動の中で、この森は幾度となく姿を変えてきました。
歴史の中で、森の恵みを収奪する人間の活動によって森が消えた時期もあり、そしてまた、マツ林となった時期もあります。
そして今、温暖な半島の気候の下、この森はシイノキやカシノキ、クスノキなどの常緑広葉樹が優先的に占める、昼でも暗いこの土地本来の自然の森へと姿を変えてきています。
必然的に、マツのような、人間との関わりの中でその生育範囲を広げる樹種は、人間による森の収奪が弱まるにつれて、その生息数が減少してくるのは自然の摂理というものです。
増えすぎたマツは、人との関わりの変化とともに徐々に活力を失い、そしてセンチュウなどの虫害によって枯れていきます。
しかし、この松の風景は、真鶴半島の森の代名詞の一つ。それを保持するために、半島のマツの巨木の幹に穴をあけて、農薬の樹幹注入が行われていました。それによってマツの体内にもぐりこんだマツノザイセンチュウをせん滅しようとしていたのです。
環境の変化に押されて徐々に弱ってゆく樹木を、農薬の樹幹注入によって救うことなど、実際にはできず、一時しのぎの延命措置にしかすぎません。
元気な木は長い年月の間、次々に襲いかかる病虫害にも打ち勝って、数百年以上もの寿命をまっとうします。病虫害によって樹木が衰退してゆくのではなく、環境に適応できずに精気が弱った個体が、病虫害の甚大な被害を受けて枯死してゆくものです。それはある意味、寿命というものでしょう。
そういう私自身も数年前までは、病虫害への対策として、農薬に頼った管理を行っていました。しかし、農薬を樹幹に注入することで、樹幹内の害虫は一時は退治できますが、農薬の毒によってその樹木はますます弱ってしまいます。そして弱った木はまたすぐに病虫害の餌食となって、それでも木を活かすために農薬を使うといういたちごっこの末、徐々に枯れていくのです。
農薬の使用を止めて初めて、今までの自分が、いかに間違った管理をしてきたか、そんなことを実感したのです。
自然の遷移に逆らって、寿命尽きて枯れようとする樹木を薬漬けにして、一体何を守ろうとしているのでしょうか。
この森の姿が変わってゆくのは当然のことです。
この半島のマツは、今の人と自然との関わりの中では、尾根筋や潮風をまともに受ける海岸沿いの一部に残存し、それ以外は、常緑広葉樹の森へと移り変わってゆく過程で姿を消してゆくというのが本来の自然の姿なのでしょう。
微妙なバランスの上に成り立つのが生態系というもの。全てを意のままに管理しようとするのは人間の大いなる間違いです。