師走の風 平成22年12月13日
一昨日、造園設計の打ち合わせのため、神奈川県の真鶴半島を訪れました。
少し早く着いたので、半島の先端、馬場浦海岸に降り、師走にしては異常に暖かな強風に吹かれてきました。
澄みきった青空と、太平洋に張り出す半島の澄んだ海、強い風が荒波を起こし、磯にぶつかります。
美しい半島です。
とても忙しくあわただしかった1年間が、激しく寂しげな波間に回想されて、そして打ち流されてゆくようです。
ふっと、5年も前、あるいは8年前、私は何をしていただろうか、などと考えます。
とにかく、今は本当に忙しくなりました。
師走の時期は、手入れの仕事が集中します。来る日も来る日も手入れに追われる12月、そんな師走をもう20年近くも繰り返してきたことになります。
12月の手入れは、昔からのお客様方々との再会の時節でもあります。20代後半で独立してから、早くも13年目となりました。古いお客様方々とはすでに10年以上のお付き合いになります。
お年を召されてますます元気な方もいらっしゃれば、徐々に弱っていかれる方もいらっしゃいます。もちろん、亡くなられたお客様もいらっしゃいます。
独立当初の若い頃、 仕事も少なく、金銭的な余力もなくて、毎日が明日の仕事の心配ばかりの月日だった気がします。ビラを配り、営業に動き、そして1件の小さな手入れ仕事が入ってくる度、従業員や家族と喜びを分かちあったものです。
毎年、「今年も何とか食べていけた」との安堵と感謝、それが私にとって師走の思い出の一つです。
12月の茶席の掛け軸の定番、「無事是貴人」とあります。今年も1年間無事に過ごせたことこそ何よりも尊いことで、感謝の思いと知足(ちそく=足ることを知る)の幸せの実感の中で、来年を迎えようと、そんなところでしょうか。
無事是貴人、その言葉を実感を持ってありがたく感じるまでには、生きるための努力、自己を正しく活かすための努力、人のご縁に助けられ、人に支えられたありがたき体験の積み重ねが必要なのかもしれません。
さて、若き日の高田造園を支えて下さった古き良きお客様には、感謝の思い以外に何もありません。駆け出しの頃の私たちを信頼し、よくしてくださったお客様の心の平安を願い、幸せを願う想いが心底から湧きあがってきます。そして、今こそ本当の恩返しの時と、全ての真心が湧き出してきます。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」全てが移り変わり、そしてその流れの中に私たちは生きていきます。
長いお付き合いのお客様もお年をとられてゆくように、自分たちも確実に年を重ねていきます。
素晴らしいお客様方々との交流の中で、大切な感謝と奉仕の心が育まれてきたように思います。人を育てるのは人、そして誠の心のようです。そこに何の理屈もありません。
仕事を通して、大切なことを教えて下さる、そんなたくさんのお客様に心から感謝です。
師走の風が人の心にもたらすもの、良い風に吹かれて身を任せ、そして今年をしっかりと締めくくりたいものです。