心の中の庭 平成25年4月18日
昨日、心根注入して取り組んだ庭つくりが、また一つ終了しました。
そしてまた、新たな庭つくりが明後日に始まります。
庭つくりの度、毎回私は、一期一会の思いでその仕事に向き合います。その分、それぞれの庭には、思い出がいっぱい込められます。
どの庭も、すべてが私の分身であり、そしてすべてがその時の自分を燃やした命の証として、脳裏に刻まれます。
ぼくは、これまでどれほど庭を作ってきたことか。ふっとしたきっかけでそんなことを偲びます。
果てしなく続く人生の狭間、今日は若手社員たちを連れて、日がな一日、あちこちと庭の見回りにうかがいました。
そしてそれは、自分の原点回帰の旅路となります。
はじめに訪ねたのは、東京都小平市、なおび幼稚園。つい1か月前の竣工の庭です。
たったひと月ですでに、清らかな新緑の木々に包まれた空間へと、なじみ始めているようです。
園舎際の木々がデッキに涼しげな木漏れ日を落とします。これらの木々が、ついひと月余り前には全くなかったのですから、景色を変える植栽の力は本当に素晴らしいものです。
園児たちと一緒に植えた千本の苗木、大切に育てられて一本たりとも枯れていません。
楽しかった思い出の幼稚園、ついひと月前のことですが、もう何年も前のことのように感じます。
次に訪ねたのは、東京都武蔵野市Tさんの庭、施工後10年の月日が経過しました。
10年前の自分の庭、当時やりたかったことがこの庭の随所に刻まれて、当時のことを思い出します。
そしてこの庭も同じく東京都武蔵野市、S先生の住まいの庭。施工後4年が経過しました。
植栽当時はほっそりした木々が、今となっては住環境に深みのある陰影を生み出し、さりげなく、しかし奥深い思索を誘いだされるような庭となってきたように感じます。
今は亡き私の無二の友人と二人三脚で造らせていただいた、とても大切な庭です。
そしてここは東京都杉並区、神田川の桜並木に面した家、野の花を生ける会「草平」を主宰される、柴田柚実子先生のお宅です。
竣工して4年目となりました。
2階からは目の前に桜並木が広がります。そのため、植栽は控えめに、なおかつ自然に包まれた安らぎの住まいつくりを心がけました。
4年経った今、家屋はすっかりと庭の自然な緑の中に浮かぶようになりました。
庭は形なんかではありません。本当に良い庭は、お客様の心と真剣に向き合うことで生み出されます。そして、年月をかけて完成させてゆく、暮らしの風景の作るということの本当の意味を、この庭は思い出させてくれます。
そしてここは千葉市美浜区、カフェどんぐりのエントランスの庭です。
植栽して丸2年が経過し、都会の厳しい環境に耐えて木々は徐々にこの土地の風景として溶け込み始めてきたようです。
カフェの玄関アプローチデッキに木漏れ日が揺れて、せわしない時間の流れをこの一時だけ、ゆっくり巻き戻してくれているようです。
オーナーの齋藤さんは、私たちの突然の訪問をいつも快く迎えてくださり、そして私たちにおいしい水出しコーヒーを淹れてくださいます。そして、カフェのテーブルで、はるか昔のような2年前を思い返します。
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そしてここは千葉大学西千葉キャンバス。昨年植栽させていただいた記念樹林です。
1年を経過し、緑豊富なキャンパスの風景になじみつつあります。
私の父母の母校です。
ここに来ることで、私は亡き父を偲び、そして父と母の青春時代の空気を感じとろうとします。
植栽後、私は大切な仕事の前には必ずと言ってよいほど、この木々に相対し、そして心こめて手入れします。亡き父に向かい合うことができるように感じるのです。
千葉市若葉区、S氏邸。5年ほど前に植栽した木々が、豊かな木陰を庭にもたらしています。
日差し強まる昨今、木陰の存在は本当にありがたいものです。
木々と共に暮らすありがたさは、そこに住む人が日々感じとり、呼吸するのです。
そしてここは千葉市若葉区、ホスピス敷地内の東屋の庭です。
竣工後すでに8年となります。
8年の月日の重み。木々は自然に同化し、作為を消し去っていきます。そして初めて本当の風景が生まれます。
病院ゲストハウスエントランスの庭は、私の独立当初の植栽ですから、もうすでに15年の歳月を刻んでいることになります。
ある意味、この庭が私の原点なのかもしれません。
個室病棟際の木々は、昨年ボランティアで植えさせていただきました。
病室のベットに寝たまま、木々の枝葉が望めるように、植栽しました。
ここはホスピスですので、入院された患者さん方々は、最終的には庭に出られなくなって寝たきりとなります。
その時、ベッドに横になり、静かに人生を振り返り、その窓越しに木々が見えることで、どれほど患者さんの心を和ませることができるでしょう。
そんなことを考えて、長年この病院にお世話になった感謝をこめて、植栽させていただいたのです。
数日前、心機一転とばかり、3人がかりで取りかかかった事務所の大掃除、懐かしい書類が次々と出てきて、切なく懐かしく、当時を思い起こします。
独立して初めて、造園外構一式工事を受注した際の書類が出てきました。その時の喜び、その時の気合い、そして、「必ずお客様を満足させるんだ」という固い誓いを思い起こします。
14年も前の図面も出てきます。
今にして思えば拙い設計ですが、それでもその時の全力で取り組んだ庭たちです。
思い出を一つ一つ消してゆくように、たまりにたまった書類の山を片付けていきます。
独立して5年目に作成した営業用のパンフレットの自分の写真を振り返ります。
11年前の自分。前ばかり見ていた自分。楽しくて、苦しくて、いろんな思い出が心をよぎります。
今、再びあの当時に戻りたいとは決して思いません。あの頃の苦労を再び背負うには、少しばかり年を重ねた気がします。
事務所の木々は、私たちと一緒の年月を重ねてなお美しく、いのちを輝かせて見せてくれます。
そして、共に生きる我々に、いのちのエネルギーと今を生きることの意味を感じさせてくれます。
私もこの木々のような人間になりたい、この木々のように年を重ねていきたい、そんな思いが静かに胸の中にこだまするようです。