茨城県鹿島市 野草舎森の家 環境整備竣工 平成28年4月8日
2月よりかかり始めた、茨城県鹿島市、野草舎森の家、園庭の竣工です。
竣工の今日は、園児達と一緒にジャガイモの植え付けでした。素手で土を掘って種芋を置き、そしてペタペタと土を埋め戻してゆく、ひんやりした土の感触が子供たちの小さな手に刻み込まれます。
園児たちは後退で畑に出て、楽しそうにジャガイモを植え付けます。
園庭の脇に、300坪はあろうかという広い畑を一人で「開墾したのが、写真右端、理事長の関沢紀氏です。
関沢さん夫妻は、30年ほど前、野草舎子供の家という保育所をはじめられました。
そして長年、子供たちと野菜を育て、味噌を作り、山に登り、森を歩く、そんなことを保育園の子供たちと一緒に実践されてきたのです。
この野草舎森の家は、野草舎の新たなもう一つの園舎になります。30年前、野草舎をはじめられるに当たっての関沢さんの想いを、その著書のページよりご紹介したいと思います。
『野草舎
保育園に「野草舎」という名前をつけたのは連れ合いの考えだった。
逆に連れ合いは、「保育園」という言葉はつけたくなかったという。
その頃私たちは、魯迅の「野草」という短編集を読んでいた。
その冒頭にある、「野草は、その根深からず、花と葉美しからず、しかも露を吸い、水を吸い・・・・」という文章に感銘を受けた。
連れ合いは、人間もまた、根は深くない野草みたいな存在であり命、生きて死ぬ、はかないもの、人間中心ではなく、人間もまた自然の一員、としみじみいったのだった。
そうして連れ合いは最初に考えたことは、鹿島地域に新しい保育を子どもたちと実践していくことだった。
様々な自然体験と生活体験をすることによって、生きるための基礎的な力を身に着けていくことを大きな柱に据えたのだった。
またもう一つの柱として、大人から子供が、子供から大人が学ぶと同時に、地域の暮らしも考えてゆくような保育所つくりを目指したのだった。』
なまず日和 関沢紀著 新泉社より
そんな関沢さんのお考えに共感し、この園庭を、理想の環境に育てるべく、力を尽くしました。
木々とその合間の広い空間、その園庭には平らな場所は一カ所もありません。
建築工事に際して傷んでしまった大地の通気環境を整えながら造成してゆくと、必然的にこんな起伏地形が生じます。それにしても、、、ここまでやってはたして大丈夫か、、そんな不安もありましたが、
子供たちは完成したばかりの園庭に出ては、でこぼこの地面の感触を楽しむように歩き回ります。
つまずいて転がったり、
起伏を楽しむようにひょこひょこと楽しそうに歩き回る子供たちの姿を見て、これでよかったと感じます。
バリアフリー、直線の車道に車いす、人の都合ではなくタイヤの都合で作られる非人間的な道や街の中で、子供たちが五感を研ぎ澄ますことのできる環境はますます失れて顧みられない時代において、子供が興味を持って転げまわりたくなる環境、心も体も頭脳もうきうきと喜ぶ環境こそが、今とても大切なもののように感じます。
園庭の真ん中に、土中の通気を考慮して設けた一本の谷。そのラインは子供たちの楽しい道になりました。
幅わずか30㎝程度の小さな道、でも子供にとってはそれはとても快適で歩きたくなる道のよう
です。
園内に点在する木立はすべて、マウンド上に起伏を設けます。水と空気の動きに配慮した地形起伏はごく自然で柔らかく、建ったばかりの園舎の佇まいも違和感なくこの土地になじむのです。
そして、樹木マウンドの根元は、古茅、木炭、ウッドチップ、燻炭等でカバーして、植栽したての地表を保護します。すでに、たくさんの生き物が茅の下に生息し、ぴょんぴょんと跳ね回ります。
こうした多彩な生き物たちがまた、土を育て、なおかつ子供たちの楽しみと興味と観察眼を、おのずと育てていきます。
大谷石の古材と洗い出しを組み合わせた玄関アプローチ。
こうした造作は単なるデザインではなく、時間軸を超えてその場をなじませる佇まいを生み出すための配慮が大切に思います。
曲線のラインが丸みのある園舎に繋がります。こうした園路によって、土中や表層の水と空気の動きを妨げることのない配慮も大切です。
園路洗い出し下地。解体したコンクリートブロックを束石のように置いて、その合間にコンクリートガラ、木炭、ウッドチップ等をふっくらと隙間を持たせながら敷いていきます。また、竹筒を横断させて、下地の通気を確保します。
そしてその上にワイヤーメッシュを敷設し、ベースコンクリートを打ちます。ちょうど、ベースコンクリートが束石の上に乗っかる状態となり、下地の土壌空間が歩行者の荷重で圧迫されることを防ぎます。
塗り込み後、洗い出し施工中。
洗い出し舗装面と大谷石との合間にも目地を設けて、地表の水や生き物の道を遮断しないよう配慮します。
完成後の玄関園路アプローチ。
この土地の土で
仕上げた塗り壁の門塀。乾燥を待ってから仕上げ塗りします。
曲線状の焼き杉板塀。
板塀の緩やかなカーブが植栽越しの園舎のラインに繋がって一体感を生み出します。
人にとって心地よい空間は木々や生き物たちにとっても心地よい空間でなければならない、まして感性豊かな子供たちが大切な月日を過ごす場所なのだから。
様々な配慮を重ねるにつれて、木々や空間の表情はより穏やかに、優しさに包まれていきます。
健康ないのちの環境に包まれて、大人も子供も、お互い共に成長してゆく、そんな、森の家の日常がこれから刻まれていきます。